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ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
 

誤字等気になることがあり
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ユキちゃんと
和服な感じの某所でのあれの結果です
掛け算ということを忘れて普通に足し算になってしまいました

某曲からかなり影響をうけておりますが、曲の解釈としてのものではないので悪しからず





かつん、かつん。
下駄と枯れ井戸がぶつかる音は、遠くに聞こえる祭の雑踏に混じることなく少女の耳に届く。
雑木林を歩いた足はところどころが土に汚れ、真っ赤な金魚が泳ぐ白の浴衣も似たような惨状だ。
つまらなさそうに足を揺らす少女の目は、薄曇りの夜空に向けられていた。
星のないそこに落胆したように、しかし星が覗く瞬間を逃すまいと見上げる。
そうして周囲に一切注意を払っていなかったからか、少女の驚きは大きかった。

「どうしたの?こんなところで」
「ひゃっ!」

反射で動いたそのままに井戸の中に倒れる背中を大きな手が支える。
澄んだ黒の瞳はきょろきょろと宙を彷徨い、危なかった、と暖かさを含んだ声の元へと定まる。
彼女のすぐ隣にいたのは、浴衣姿の青年だった。明かりが少ないせいでよくわからないが、髪の色は黒とは違うようだ。
少女は、ぽかんと口を開け彼を見たまま動かない。その様子に青年は苦笑いをしたようだった。

「ごめん、驚かしちゃったみたいだね。痛いとこはない?」

まだいくらか呆然としているようだが、その言葉は耳に入ったのか少女は首を横に振る。
よかった、と青年が少女を元の場所に座らせると、幾分落ち着いたのか、少女は宝石のようにきらきらと瞳を輝かせ、青年に問い掛けた。

「ねぇ、あなたは、お狐様なの?」

青年の顔は、狐面で隠されていた。
不思議なものへの好奇心ばかりで恐怖など微塵もない声に、青年は小さく笑う。

「そうだよ、人に化けてるのによくわかったね」
「わかるよ。ね、しっぽはどこ?」
「しっぽはうまく隠したんだ。狐だってばれないようにね」
「でも、お顔がそれじゃあばればれだよ?」
「顔はちょっと苦手なんだ。ここは暗いから、ばれないと思ったんだけど」
「だめだよ、もっと練習しなくちゃ」

くすくすと笑う少女に、狐はきまり悪そうに頭を掻く。
曇り空を眺めて思案するそぶりをみせ、もしよかったら、と狐は言葉を紡ぐ。
お喋りはとても上手なのに、と内心でまたくすりと笑い、少女はなあにと続きをねだる。

「今から、とっておきの天の川を見せてあげるから、俺が狐ってこと秘密にしてもらっちゃだめかな?」
「天の川?」
「うん」

狐は屈み、少女と同じ目線で続ける。

「すごく綺麗な、俺のとっておきの場所」
「嘘だよ。天の川は七夕の時しか見れないもん。それに、今日はくもっちゃってるもん」
「嘘じゃないよ。とっておきだからちゃんと見れるんだ」
「……ほんと?」
「ほんと」

狐が手を差し出すと、少女は少し迷って、その手をとって立ち上がる。
いこうか、と言う声はにっこり笑っているようで、少女はぎゅっと手を握って頷いた。



橙色の提灯の列とは逆の方、雑木林の奥に奥にと二人は進む。
途中で狐が名前をきくと、少女はユキ、と答えを渡す。ユキがききかえしてみれば、狐は秘密とだけ返した。
空はいまだに曇り、月明かりもなく、ユキには天の川どころか、帰り道ももうわからない。
それでもなぜか不安は一つも浮かぶことなく、ユキはただ狐が手のひくままについていく。
ぼうぼうと草が生えた道を歩くうち、狐がまたユキに問い掛けた。

「そういえば、ユキはどうしてあんなところに?変な人に襲われたりするんじゃないかな」
「お狐様はそんなことよくしってるね。今の狐だから?でも、大丈夫だもん。ユキ、変な人についてったらだめって言われてるの」
「……そっかぁ」
「ね、お狐様はなんでいたの?さっきみたいな秘密はなしだよ。そうしなきゃ私も秘密にしちゃうよ?」
「しょうがないなぁ。俺はね、…油揚げ、油揚げをもらいに行く途中だったんだ」
「ふぅん。なんで人に化けなきゃいけなかったの?」
「今の狐だからね、いろいろあるんだよ」
「いろいろってなに?」
「ユキにはまだ難しいからなぁ…」

それを聞くと、ユキはぷくりと頬を膨らませた。
握る手に力を込めると、狐がいたた、と声を上げた。
ユキが足を止めて、狐の足もしかたなく止まる。
どうしたの、と声が聞こえても、ユキは地面を睨むように俯いたままだ。
狐がユキをうかがうように屈むと、ぎゅう、と力がまた強くなり、ぽつり、と声がおちる。

「なんでみんな、そんなことばっか言うの?」
「…そんなこと?」
「みんな、なにもちゃんと教えてくれないもん。わたし、だけ、、なかまはずれ に、」

しゃがみこんでしまったユキから嗚咽が漏れる。
ぽたぽたと地面が湿り、狐は強く繋いだままの手とは逆の手で、二つ結びの頭をぽんぽんと優しく撫でた。
暖かな温度に気が緩んだのか、押し殺すような泣き声が徐々に大きくなる。
大粒の涙を零しながら彼女は、枯れ井戸にいた理由を話した。

兄のような存在の従兄弟が歌を歌っているときいたユキは、彼に聞かせてほしい、と頼んだらしいのだ。
しかしその願いは、ユキにはまだ難しい、の言葉で断られてしまった。
そのかわりに、とつれてきてもらったお祭だったのだが、店を回るうちに従兄弟の数人の友人と出会い、話に花が咲いてしまったらしい。
大人達の会話に入ることはユキにはできず、その内容がどうやら歌のことだったのがいけなかった。
ユキは従兄弟を困らせるつもりでお祭を抜け出し、曇った空に流れ星を探していたのだという。

話すうちにまた思い出したのか、終わるころに泣き声は一際大きくなっていた。
ユキの頭を撫でながらじっと話を聞いていた狐が、それじゃあ、と口を開いた。

「こんなのはどうだろ。従兄弟のお兄さんとさ、秘密を交換してみる、とか」
「………こうかん?」
「うん」
「でも、ひみつなんて 、ない もん 」
「あるよ。今から狐のとっておきの秘密を見に行くんだから、それを教えればいいよ」
「で でも、そうしたら、ひみつじゃ なくなっちゃう」
「俺と、ユキと、お兄さんと、3人だけならまだ秘密だよ。大丈夫」
「そう、かな ?」

まだ湿っぽさを残しつつも、幼い顔があがる。
うん、と狐が優しくこたえると、ユキはごしごしと涙を拭いて立ち上がった。
実はね、もうすぐなんだよ、と狐が言う。

「ちょっと足元涼しいかも」

ユキよりも背の高い茂みを通りぬけると、それまでは聞こえなかった水の音。そして

「蛍、だぁ」

ふわふわとした優しい光が二人を迎えた。
小川の周りを沢山の蛍が舞う。
行ってみてごらん、という言葉に背中をおされ、ユキが恐る恐る光の群に近づいた。
くるり、くるりと狐の言った天の川を眺め、触れようと手を伸ばし、けれど途中でそれをひっこめる。
蛍をあまり散らさないように足音を忍ばせてユキが戻ってくるのを、青年は狐面の下で微笑みながら見つめた。
ふわり、と一匹の蛍がユキを追いかけてきた。
からかうように狐の周りを飛んで、彼の青い髪をほのかに照らす。

「もういいの?」
「うん、お兄ちゃんと次くるとき、一緒によくみる」
「そっか。じゃあ帰り道はしっかり覚えないとね」
「うん!」

ちらりと天の川を振り返り、狐の手を握る。
狐がいくつかの目印を伝えながら歩けば、ユキは真剣な表情でそれを聞いた。
しっかり覚えようと必死な少女が微笑ましく、狐が気を遣ったことから帰り道は行きよりも随分と静かだった。かさかさと草を踏む音と、虫の声が二人を見送る。
ほどなくして枯れ井戸に戻ってくると、狐はやんわりと繋いだ手を離した。

「もう、ここからはわかるね」
「うん」

頷くユキを見て、狐は満足そうに頭を撫でた。
それじゃあ、と離れていく手にユキの瞳に寂しさが宿る。
それを見越していたように、狐の手はすぐに戻ってきた。
目の前で開かれた掌の中には、つるつるとした小石が入っていた。
どうすればと狐を見れば、あげるよ、と優しい声が言う。

「お守り。ユキがこの道を忘れませんようにってね」
「…忘れないよ。しっかり覚えたもん」
「でも持ってってよ。せっかくだし」

おずおずと、親指の先ほどの石を取る。
狐は満足そうに頷いた。

手を振って、ユキは橙色の提灯の方へと歩く。
掌には小さな硬い感触。
さっきまでの暖かさはまるでないけれど、するりと落ちてしまわぬよう、ユキはしっかりと手を握った。






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