ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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年末年始企画!
BB兄弟で切な甘 です
今にも他の建物に潰されそうな粗末な宿の一室。
ただでさえ蝶番が悲鳴を上げるそのドアをラグナは乱暴に蹴り開けた。
なんとも言えないこの複雑な表情をどこかの吸血鬼の姫が見たならば、彼女は優雅に一笑するだろう。同じく足でドアを閉めた彼の背には、ぐったりとしたジンがいた。
目覚める様子がない弟を一先ずベッドに寝かせ、ラグナは溜息をつく。思い返すのは、ついさっきの自分の失態だ。
そう大きな怪我を負わせる前に意識を失わせることができたのはよかった。しかし、気付けば街の中心からは随分と離れてしまっていたのだ。
いつもならば気絶させた後は放っておいて逃げてしまうのだが、その時彼らがいた場所は治安がいいとは言えなかった。気絶した人間の身ぐるみなど簡単に剥がれてしまう。
現に、戦闘に巻き込まれまいとして辺りに散っていた者達が終わり察したのか、ちらちらと覗いているのを感じていた。
いくらなんでもそこまで酷くは扱えず、かといって賞金首である自分が街中まで統制機構の師団長であるジンを運ぶのはおかしい。
そうして悩んでいるうちに、賞金目当ての咎追いが集まり始め、結局はジンを背負って隠れ家まで来ていたのだ。
なにが、どこが悪かったのか、わざわざ隠れ家の一つに引き込まなくてもよかったんじゃ。
はぁ、と再び溜息を漏らしつつも、部屋に散らばっている治療道具を集めてベッドに戻る。一緒に引っ張っていった椅子は足が揃っておらず、ガタガタと音をたてるのでなるべく静かに座った。
連れてきてしまったのだ、自分のつけた傷くらいは治してやるつもりだった。
血の滲んだ手袋をとってやると、白い腕に赤い線がはしっている。出血はしたようだが、跡も残さずに消えるような傷だろう。
よく見てみればこの傷の他にもうっすらと傷痕が残っていた。自分のつけたものか、はたまた違う誰かか、などと思考が流れ始めたところで、小さく名前を呼ぶ声が耳に入った。見れば、ややぼんやりとしているが緑色の瞳がラグナへと向けられている。
実の弟の手をとり、なおかつ見つめ合っているなどという状況はあまり続くと変な気分になりそうだ。とりあえずなにかを言おうとラグナは口を開いた。
「……起きたか?」
「あ、うん。ねぇ、兄さん、これってどんな状況?」
「あー…さっきのでお前怪我してんだろ。消毒ぐらいはすっから」
明らかに説明が足りていなかったがなんとなく察したのか、そっか、とジンが返す。消毒液を手に吹き掛け、痛いかと聞けば、もう小さくないんだからと小さな笑い混じりに言われた。
考えてみれば、もっと酷い怪我を負わせてしまったこともあるのだから、随分とおかしなことをきいた。罪悪感がじわりと広がりかけ、結局ラグナは口を閉じる。
だがそんな彼の心中を知ってか知らずか、ジンが呟いた言葉は閉じた口をまた開かせた。
「でも、びっくりしたよ。兄さんに襲われてるのかと思った」
「おそっ?!な、なに言ってんだこのバカ!」
「だって兄さん、すごく真剣に僕の手見てたから」
「はぁ?!いや、治療しようとしてただけで、そういうんじゃなくてだな、」
まさかそんな目で見てしまっていたとは、いや、でも、などとラグナの頭がぐるぐると空回りを始める。馬鹿なことをと一蹴すればいいと頭の片隅が主張しているのだが、囁くような僅かな考えのせいでそれもうまくできない。
「冗談だよ。兄さん可愛い」
やわらかな笑い声と投げ掛けられた言葉で、ようやく混乱が治まる。
くすくすと続く笑いに脱力し、ラグナは大きく息を吐いた。
「お前なぁ…そんな事言ってるとマジで襲うぞ」
「でもそれ、冗談なんでしょ?」
「当たり前だろが、バカ」
手に持ったままだった消毒液を置いて傷にあてるガーゼを探していると、ラグナを追うようにジンの手が伸ばされた。
まるでなにかを恐れているかのように、手が触れる。
ねぇ、と吐き出された言葉は囁くようで、ひとかけらの感情が滲んでいた。
「兄さんになら、襲われたいんだけど」
「ッ?!……何、バカなこと言ってんだ」
「兄さんのことだから、女とするときも優しくしてあげるんでしょ?」
「おい、ほんとお前、」
「女なんかにできないくらい、乱暴にしていいから」
吐き出す言葉は歪だったが、瞳は悲愴の色に染まっており、ラグナはそれを受け流すことができない。懐かしい記憶が脳裏にちらつく。
「僕だけのもの、ちょうだい」
「ジン………」
ごめんな、とラグナの手がジンの頭を撫でた。その手つきは優しく、ジンの表情はくしゃりとゆがんだ。
違う、これじゃだめなんだよとうわごとのようにつぶやき、ジンはラグナの手を振り払う。そう強い力は篭っていなかったが、ラグナは手を引いた。つい先ほど自分自身がつけた傷が見えたからだ。
白い腕にはしる傷口は、その肉を割り開けと誘うように赤かった。
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