ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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カイトとアカイト
人間設定 というか、
ついったでの、『血のつながりはあるけれど、
今まで別の家庭で育てられたために
心を通わせることの出来ない兄弟の
ぎこちないやり取りを描いた作品』
という情報を元に勝手にどうにかしてしまったもの
元の作品は知らないという滑稽さ
夕方の商店街は親子連れが多い。その中で、買い物袋を抱えた学生が二人で歩いているのは珍しいのか、ちらちらと向けられる視線がひどく煩わしい。
早く人混みを抜けてしまおうと歩を進めると、隣を歩くカイトが呼び止められた。声をかけたのは芯の強そうな綺麗な女で、それに気付くと、嬉しそうな笑顔を向けている。
まだ一月ほどの付き合いだが、こんな表情は初めて見た。多分こいつの恋人なんだろう。 あっちも家族連れだったらしく、引き止められた時間はそう長くない。離れる時に俺を見て、あなたが例の、と微笑んだ綺麗な声が、やけに耳に纏わり付いた。
+++
「アカイト、どうしたの?」
マンションの階段を上る途中でカイトが尋ねる。商店街を出たきりろくに喋ろうとしなかったんだから、当然の疑問だろう。
でもそんなこと聞かれても俺だってよくわからない。なんとなく喋る気がしないのだ。
べつに、と一言だけ返せば、不服そうな声があがる。
それでも、聞いてきたのはそれきりで。結局無言で階段を上がる。 コンクリを蹴るカツンカツンという音がやけに大きく響いた。
やけに長く感じた階段を上がり終えると、また後ろからカイトの声がする。
「なんだよ」
「それは俺がきいてるんだけど」
「なに、お前イライラしてんの?」
「だから、それはアカイトだろう」
「だったらどうしたんだよ。お前に関係ないだろ」
「そんな・・!」
さっさと帰ってしまおうと足を早めたら腕を掴まれた。ああクソ。自分の顔が歪むのがわかるのがこんなに不快だとは。
そのまま睨みつければ、カイトは自分でも驚いたような顔をしていて。振り払えば、簡単に手は離れた。
こんなやつ置いてさっさと行けばいいってことはわかってる。でも、なんだよ、その顔。
ぽつりと、言葉が落ちる。
「・・・・俺達、兄弟じゃないか」
「は?」
頭の隅でくすぶっていた、見ないふりをしていた感情が押し寄せてくる。
「なんだそれ。兄弟?だからなんだよ」
「え?」
「こんな歳になって初めて会った奴と兄弟とか言われても、何もねぇだろ。思いやりとか、助け合いとかそういうの?」
「違う、俺はアカイトと兄弟になりたいって思っ」
「なにが違うだ。適当な事言って、どうせ珍しい話のネタ程度にしか思ってないんだろ」
「そんな、」
「黙れ。赤の他人が口出すな」
カイトの顔が歪む。
言いたい事を言ったと思った。
なのに、この気持ち悪い感情はどこにもいっていない。むしろ一層膨らんで俺を圧迫してくる。
それから逃げるように、俺はカイトに背中を向けた。
「・・・・・ごめん」
そんな言葉なんていらない。
気付けば陽はとうに落ちて、暖かな赤い光は蛍光灯の目に痛い白に変わっていた。
もうこんな話はしないでさっさと帰るべきだった。太陽がいない空気はどんどん冷たくなっている。
何も言葉を返さずに歩きだす、が、低い温度が触れた。
さっきとは違う、最初から力なんてまるで入ってない手は、振り払うのをためらってしまう。
「確かに、普通の兄弟みたいじゃないけどさ、俺、それでもアカイトと兄弟になれて、嬉しかったんだ」
なに言ってんだとか嘘つくなとか、攻撃的な言葉がせり上がる。
それでも、静かな声と低い体温のせいで振り向く事もせず、言葉の終わりを待ってしまう。
「昔さ、やっぱ兄弟とかほしくて。だから、色々話したいことあったんだ。でも、全然興味ない事話されたら迷惑かなって、思って。だけど、勘違いされるならちゃんと言っておけばよかった」
「俺はアカイトと兄弟になりたい。適当なこと話したり、困ってる時に頼ったりできるみたいな。だめ、かな」
少し震えた語尾は、こいつも不安だからか。
さっきまでぐるぐると渦巻いていた言葉や感情は、すっかりなりをひそめていた。
かわりに出てきたものもまたごちゃごちゃとしていて、簡単に言葉にできない。けどそれは、さっきみたいな気持ち悪さは微塵もない別物だ。
どうにか言葉を組み立てようとしていると、言葉を発しない事を拒絶ととったのか、カイトの手が離れようとする。
それを感じると、体は反射的に動いていて。振り返って離れた手を掴む。
俺の行動に驚きを隠せず大きくなった瞳が小気味よくも、僅かな苛立ちを覚える。予想していなかったんだろう。それならもう、とことんやってやろうという気になる。
掴んだ手をそのまま引いて、俺より少しだけ小さな体を抱きしめる。買物袋がガサガサと音をたてた。
あ、とかう、とか混乱しきったちいさな呟きが、耳のすぐそばから聞こえる。そのむず痒さで、さすがにやり過ぎたかという思いが浮かんだが、すぐに掻き消される。やっと言葉が浮かんできた。
「カイト、俺もそうだから。よろしく」
しっかり聞こえたようで、うん、という返事と共に、おずおずとカイトの手が背中に回ってくる。
バクバクとあまりにも速く心臓が脈打つ音が聞こえ、帰ったらからかってやろうと心にきめた。
けど今は、もう一度この体温を強く抱きしめよう。
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