ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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ぶりるPの秘密警察に触発されて書いたものでございます
なんというか、全体的に登場人物の後ろに、(みたいな人)
とか付けたいような状態になっています
一応出てくるのは
カイト、メイコ、ミク、鏡音
使ってある単語はそれっぽいだけなんで深く考えないでいただけるとありがたいです
れで、ぜひとも我社のプランを・・』
「何度かけてきても無駄だって言ってんでしょーが。そんなんいらねーよ」
男は乱暴に電話を切った。セールスだとわかってなければ出なかったのに、と溶け始めたアイスを見て舌打ちする。
ピンクやエメラルドグリーンを盛った4つの椀を器用に持ち、男は足だけでその廊下の先のドアを開けた。
あまり掃除の行き届いてない床の上で戯れていた金髪の双子が、男が戻ってきたのを見て遅いと口を開く。
「すまん、セールスの電話がクソ長くてアイス溶けかけた」
「はぁー?なにそれ!」
「アイス優先だろマジ」
「うっせぇ。仕事かと思ったんだよ」
「そんなアタシらにカンケーねぇし」
「っか、先にやろうとしたことのが先にやるべきじゃね?」
「お前とは違って俺みたいなシャカイジンサマは違うんだよ、家出ショーネン」
騒ぎ立てる金髪の双子を黙らせるために椀をちらつかせれば、野良猫かなにかのように餌をひったくる。
この双子は男の拾いモノだった。道端にたむろしてぐだぐだとしているくせに、プライドの高そうな目に興味をひかれて声をかけた。
男が今まで見た中では、そういった子供は大抵が寂しさやら虚勢やら不安やら、如何にも子供、といった目をしていたのだが、この双子にはそれがない。生き延びるためならなんでもやる、という強い目だ。それは非常に好ましかった。顔の造りも上等だ。
こうもうるさくちゃたまらないが、と内心で悪態をつきつつ、男は己の分と、もう一つの椀を持って部屋の隅に向かう。そこにいたのは長い髪の少女だ。
あの双子とは違い、不安そうな目。それだけ見れば、他の家出少女達と変わりはない、というよりむしろ、なぜ家出などしたのかと思うほど弱々しい。 しかしその顔は実に整っており、少女らしい折れそうな儚さと、それ故に生まれるどこか不安定な色香を纏っている。
外をうろついている時には髪や顔が汚れ、あまり気付かれていなかったようだが、先ほど風呂を使わせてやればこの通りだ。男は自分の審美眼を褒めたたえながら、少女をじっくりと見つめる。
バチリと合った途端に俯く目が程よく加虐心を煽る。それを落ち着けて、椀の一つを少女に差し出した。
「ほら、お前も食え。遠慮すんな」
「・・・・・・・・・・・」
少し迷うそぶりを見せつつも、少女は無言でそれを受け取る。
部屋に呼ぶまでの何回かの交流から、少女が無口な性格なことを男は知っていた。しかしできることなら、声も聞いておきたかった。
どうにかして喋らせよう、と男は少女がアイスを口にする前に言葉を探す。
「そういや、名前なんつーんだっけ。外は嫌だから部屋で言うって言ってたじゃん」
「・・・・・」
問い掛ければ、スプーンを止め、少女が少し考えるように目を伏せる。
男の記憶では、少女は汚れた格好であった時でも美しいと感じる声をしていた。今の、外見が整った状態ならばその美しいさはさぞかし引き立つだろう。
よくよく耳を澄まし、少女の声を待つ。
床を泳いでいた視線が男を捉え、薄い唇が震えた。
「アウト」
「・・?え、君って外国じ、っ!」
男の背後から4本の腕が伸び、鼻や口、首に絡み付く。
隙だらけの体は簡単に床に転がり、男がようやく状況を認識したのは両手両足が冷たい金属によって拘束された後だ。
己の足で立つこともままならず、すぐ横で男を見下ろす4本の足を見上げる。そこにいたのは先ほどまでじゃれていた金髪の双子。だが、その目は男の記憶と比べれば異様と言えるほどの、冷たい色だ。子供の持つようなものではない。
確実に己が上位であったはずの状況が一変し、混乱はやがて怒りへと流れこむ。
「っな、なにすん「容疑者、××××」
吐き出した罵倒は、無機質とも言える音で掻き消される。
上書きに使われた言葉が、男の怒りを一気に冷ませ、凍らせた。
呼ばれたのは男の名だった。ここにいる子供達はおろか、他の家出少女達にも決して教えていない、本名。
その音を発したのは、男が見上げる双子ではない。その反対だ。
「国家への膨大な危害を加える危険分子だと確認。監視任務終了。粛正開始要請」
動かない体を不様にばたつかせ、どうにか声の主を見る。
感情を載せないその声は、先程の少女から生み出されていた。
浮かぶ表情は笑み。
不安など微塵もない天使のようなそれは、紡ぐ言葉との温度差のせいで、男には不気味さしか与えない。
加えて、じわじわと浸透してくる言葉の意味は男にとって最悪の結果を表していた。
混乱で鈍る頭にぼんやりと浮かぶ単語は、都市伝説だと笑われていたそれ。しかし我が身に降りかかれば、それは伝説でもないただの現実。酸欠にでもなったように慌ただしく動く口から、ようやく言葉が吐き出された。
「お、まえら、秘密警察・・!?!!」
少女の笑みが深まる。
双子の押し殺すような笑い声。
気が付けば、男の目の前には黒に包まれた新たな足が4本。
「正解、です」
見上げると、そこにいたのは右目を眼帯で覆った男と、艶やかな曲線をスーツに押し込んだ女。
「容疑者××××、監視対象から粛正対象へと移行しました」
「容疑者××××を、監視部隊から粛正部隊へ引き渡します」
「了解」
双子の声に女が答え、なにか紐のようなものを受け取っているのが男の視界に映る。僅かに引っ張られる感覚があり、どうやら拘束具に繋がっているらしい。
そのまま男の視界をすぎ、双子と少女は何事もなかったかのように部屋から出ていく。男を一瞥すらしない。
彼女達が政府直属機関である秘密警察に属するということは嫌でも理解できていた。しかし、今までただの貪る予定の弱者だと認識していた彼女達のその振る舞いが、追い詰められた男の堰を壊した。溢れ出すのは殺意に塗れた言葉。
「 っぁてやこの、クソガっぁばッ!」
だが、壊れた堰の変わりとでも言うように、男の口の中に黒い革靴が勢いよく突っ込まれる。
突然の衝撃に男が目を見開いた。
喉にまで到る靴の感覚を排除しようと無意識にえずくもたいした抵抗になるはずもなく、苦しみだけがわだかまる。
「ここからは彼女達ではなく、私共の管轄ですので。なにかご要望がある際も、こちらを通してください」
靴の主から、丁寧な言葉が男に落ちる。そこにはやはり暖かい感情はない。 しかし、眼帯男の声が、息苦しさに霞む男の思考になにか引っ掛かる。眼帯などした容姿は見れば忘れるわけもなく、初対面であるのは確かなのだが。
「それでは、粛正開始」
冷たい言葉が告げられ、男は思い出す。この眼帯男の声は、あのセールス電話と同じものだ。
その事実は、どうにかして逃げようという男の抵抗を完全に削ぎ落とした。包囲されていたのだ。逃げる隙などありはしない。
絶望の中、ガチャリ、と金属が落ちる不快な音が、男の耳に纏わりついた。
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