ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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ファンタジーな鏡音
戦っております
風が駆ける、駆ける。
青々とした葉の生い茂る森の中、大地を蹴り幹を伝い枝を掴み前へ前へと突き進む。後には僅かに葉が散るだけだ。
その風の向かう先にいたのは、樹齢五百年を越える大樹の森よりなお巨大な、魔物だった。
それの肢体は人間と似ていた。頭があり胴体があり、両腕両足もそろっている。
しかし、時折剥がれ落ちる黒々とした肌に醜い瘤だらけの頭部、ただの穴となった両目と口からだらだらと汚泥を溢れさせながら四足で動く姿を見て、近しい種族と言われ喜ぶ者はいないだろう。
加えて、その巨体は今まで発見されなかった事が奇跡だといえるほどで、立ち向かう二人と比べるとその質量差は絶望的だった。
大樹の頂上を蹴り飛び上がったリンが首筋に向かって腕を振り抜く。手甲から伸びる鋭い爪が奇妙に弛んだ肌を切り裂き、その先に桃色の肌を露出させる。
グロテスクなそこに下方から投げられたレンのダガーが突き刺さり、落下を始めていたリンが肌に刺さったダガーの柄を掴んだ。
そのまま体重をダガーへとのせて醜い肌を切り裂き、落下の勢いを殺す。
肉を裂き動きの止まったダガーをリンが引き抜き、近くの木に飛び移ると同時にダガーを空高くに放る。
それに繋ぐ形でレンが宙に舞うと、落ちていくリンの肩を借りてさらに上へと飛び上がる。
ダガーを途中で掴みながら魔物の背に着地すると、リンが作った傷口の奥に脈打つ太い血管が見えた。
これでとどめとレンが血管目掛けて飛び降りると、いびつな咆哮が森に衝撃を生んだ。
依然泥を撒き散らしながらもぎぃぎぃと鳴く高い音は脳を揺さぶり、数瞬だがレンの意識を断ち切る。
すぐに気がついたが魔物は座り込むようにして上半身を上げており、標的とした首筋の傷は遥か上方。さらに魔物が動いた事によりレンは木に突っ込む。
枝や葉が勢いを殺すも、そのうちのかなりの数が落ちていくレンに細かな傷を刻んでいく。
なんとか太い枝を掴みそこで落下を止めるが、呼吸の度に僅かな熱を生むそれらは意識を散していくので厄介だ。
皮膚に亀裂が入るような痛みに顔をしかめ、レンは空を見上げる。
魔物は幼子のように座り込み、ただひたすら鳴き続けている。
今度はあそこまで登らなければいけないのか、とレンの思考が弱気に傾きかけた。
しかし、それを引き戻す音が、森を貫いた。
甲高い鳴き声の中でもその存在感を微塵も隠さない、力強い歌。
生まれた時から慣れ親しんだ双子の姉の歌声に、木々が、森が、レンの意識が貫かれる。
それは猛々しくも美しい、戦の歌だった。
再び瞳に意志を宿し、レンは歌に己の声を重ねる。それだけで、リンの不屈の意志が響いてくるような気がして、レンはダガーを強く握り直す。
そうしてまた、風が一陣駆け出した。
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