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ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
 

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ラグナとジン
飲みすぎな弟といつもより優しい兄
 




寝静まった夜の町を、黒塗りの車が走る。
艶やかな色のそれは、統制機構が所持する送迎車だ。
外からは見えないように黒く加工された窓の奥には、現代に生きる英雄である、ジン=キサラギが座席にもたれ掛かっていた。
冷やかな眼差しをして無表情な彼はしかし、表には出さないものの、酷く苛立っていた。
先程まで出席していた食事会では、くだらない言葉ばかり投げかける上官が億劫だったし、いちいち酒を注いできたせいで、既に頭に鈍痛が走り始めている。
制服に染み付いた肉の焼けた臭いが、食事を終えた今もまだジンの喉の奥をちらちらと煽るようで、弱い吐き気が断続的に襲う。
バックミラーごしに、ちらちらと顔色を窺っている運転手の怯えた目も、彼を不愉快にさせた。
しかし運転手の様子もしかたがないといえよう。
夜の町は泥酔した者がふらふらと歩いており、中には道路の真ん中で寝こけているような輩もいる。
彼らを轢いてしまわないように走っているせいで、倍近くの時間をかけてなお、目的地には到着していないのだ。
ガクン、と車がまた急停止し、飛び出してきた酔っ払いが路地に引っ込むと、車も動き始める。しかし、もう何度目かのそれをジンの言葉が阻んだ。
ぐるぐると渦巻く不快感を閉じ込め、表情を変えないまま告げる。

「ここでいい。降ろしてくれ」
「し、しかし、まだ御自宅には、」

運転手としても仕事なのだ。その途中で、もういいなどと言われては、どうしても今後に響いてしまうだろう。
慌てだした運転手に舌打ちしたい気持ちを押し隠し、上辺だけの笑みと共にジンは車から降りる。

「ご苦労だった。君も、帰って休め」

再び何か言おうとした運転手を無視し、ジンは車が追ってこれないような細い路地へと入った。
過剰に暖房が効いていた車内とは違う、きりりとした夜の空気が酒でほてったジンの頬を撫でる。
冷たいそれは、酔っ払い達さえいない人気のなさも相まり彼を苛む鈍痛を和らげるようで、ジンは空気を体に染み渡らせるかのように吸い込んだ。
入り組んだ路地に見覚えはなかったが、だいたいの位置は把握していた。ふらり、とやや覚束ない足どりで角を曲がっていく。
そのいくつかで、ジンの視界にちらりと白と赤が混じった。
それがある男の後ろ姿だと確認するやいなや、ジンの感情が喜色に染まる。
先程までの不快感も吹き飛び、残るのは堪え難い高揚だけだ。縺れる足も気にせずに、ジンは走った。

「兄さんっ!」

ただでさえ静かな路地にジンの声は大きく響き、彼の前をのんびりと歩いていた男は振り返る。
赤と碧の瞳がジンを捕らえ、驚愕に見開かれているうちにジンがガシリと男――ラグナの腕を掴んだ。

「ジン?!テメェ、なんだよいきなり!」
「だって兄さんがいたから!ねぇ兄さん、せっかく会えたんだからさ、殺してあげるよぉっ!」
「またそれか…」
「アハハッ。ユキアネサ、召か…あれ?」

掴んだ手とは逆の手を宙にかざし、己の愛刀を呼び出そうとした言葉が止まる。
いつもはすぐに手の中に生まれるはずの冷たい感触がないのだ。
もう一度確認するように術式を紡ぐと、それが完成するまえに散ってしまっているのが感じ取れた。考えられる原因は、酒からくる頭痛だろう。
ぶり返してきた不快感を振り払おうと、ジンはラグナへ微笑みかける。

「兄さん、ユキアネサは呼べないけど大丈夫。あれが無くても僕はちゃんと兄さんを殺せるから」

するりと伸ばされたジンの手が首に触れる前に、ラグナがそれを掴む。
苛立たしげな瞳がまっすぐとジンを見た。

「ふざけんな。誰がお前なんかに殺されてやるかよ」

ラグナが乱暴に手を振り払うと、ジンの体がバランスを崩しぐらりと揺れる。
いくら細い体をしていようが軍人だ、問題あるまいとラグナは気にせず逃げようとしたが、どさりという音に引き止められた。
まさかと思い振り返れば、そこにはジンが目を回して倒れていた。
ふざけているだけかもしれないとはいえ、放っておくことはできず。ラグナは甘すぎることを自覚し、溜息をつきながらも弟の元へ戻った。

「おい、ジン」

名前を呼んでも微かな声がかえってくるだけだ。
ジンの顔からは先程の凄まじい笑顔は消え、苦しそうな色が浮かぶ。
悪ふざけではないらしいことを確認し、ラグナは今度は盛大に溜息をつく。

「ったく。体調悪いんなら変なカラみしてくんじゃねーっつの」
「にぃ…さ…」
「ほら、どっか適当なとこに運んでやるから。こんぐらいは自分で動け」

ジンの上半身を起こすと、ラグナはその前で屈んで背中に乗るように促す。
僅かに苦悶の声が聞こえたが、程なくしてラグナの首にジンの腕が絡んだ。
ジンを背負って立ち上がると、ぐったりと脱力した人間の重みと、今まで気づかなかった微かなアルコールの匂いがし、呆れた様子でラグナが言う。

「なんだ…ただの酔っ払いかよ。つかお前、もう酒飲める歳なのか?」
「…、…ぅ……」
「はいはい、喋んなよ。無理して吐くな」
「……ん…………」

なるべく揺らさないように気をつけながらラグナは歩きだす。
病気ではないのなら少し休ませればそれでいいだろうと、ラグナは近くの公園に向かった。
会話もなく、二人の間にあるのは石畳を踏む音ばかりだ。
体調が悪いジンはともかく、ただ歩いているだけのラグナは、何の気なしに首に絡んだ弟の腕を見る。
首を締めようとした腕と同じものとは思えないほど脱力したそれは、ラグナの記憶にあるものと随分様変わりしている。
ラグナのものに比べれば小さいだろうが、手はしっかりと剣を握るものになっているし、骨ばかりだった腕もそれなりに筋肉に覆われた。
なにより、背負う理由がこうも違うとは、とラグナは微苦笑する。
そのうちに、開けた土地へと出る。目的の公園だった。
入り組んだ場所にあるこの公園は、昼間に子供が遊ぶくらいにしか使われない。よって深夜になると人が消えるここは、人目を憚る必要があるラグナが気まぐれに訪れる場所でもあった。
ベンチの一つにジンを下ろして顔色を見ると、倒れた時よりはずいぶんとましになっていた。さすがに、殺そうと襲い掛かってくるほど回復はしていないようだが。

「平気か?」
「………うん」

いささか気分は悪そうなものの、ジンが返事をする。
そうか、とラグナは凝り固まった肩をバキバキとならして、自販機に飲み物を買いに行った。
若干迷った後に2種類の缶を選び、それをジンに渡して隣に座った。
ラグナは小気味いい音と共に缶を開け、微糖とは名ばかりの甘い缶コーヒーを飲む。
それに対しジンは缶を受け取ったままで飲もうとせず、訪れた沈黙に、ラグナが居心地悪そうに缶を煽った。

「お前、無理に酒飲んだりするんじゃねぇよ。いきなり倒れるな」
「…だって、そういう仕事だったんだよ」
「酒飲むのがか?」
「上のやつらとね。そうすると、飲まされるし食べさせられる」

気持ち悪いよ、とぼやいてジンは缶を開ける。ラグナが渡したもう1本は苦みのある果汁だった。
一口飲み、口の中にこびり付いていた肉の脂の味が洗い流されたように感じたジンは、ふぅ、と息を吐く。
まだ中身の残った缶を傍らに置いて、ジンが多少よろけながらも立ち上がった。

「兄さん、僕そろそろ帰るね」

もう大分ましになったし、とジンが続ける。
飲み終わった缶を持て余しながらその声を聞いていたラグナは、立ち去ろうとするジンを引きとめた。

「おい、ジン」
「え?」
「お前、道わかるのか?」
「あ…」

ジンはくるりと周囲を見回し、動きを止める。
缶を放り投げ、ラグナが不機嫌そうにジンの横に並んだ。

「ついてこい。わかんねぇんだろどうせ」
「心配してくれてるの?ありがとう。でも大丈夫だよ。なんとかなると思うし」
「そんなもんじゃねーよ!あれだ、お前が迷って家破壊しながら直進したりしないようにだ」
「兄さんじゃないからそんなことは…」
「うるせぇ」

ずかずかと先を行くラグナの後ろ姿に、ジンはくすりと笑う。
律儀に曲がり角で振り返った兄を追いかけて、ジンはゆっくりと歩きだした。














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あんたら誰!と叫びたい
糖度はたぬぃ的には高いのですがどうなんでしょう
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