ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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KAITO&ジン誕生日おめでとう記念!
ボカロ×ブレイブルーのクロスオーバー話です
よって設定とかスルーしまくりですよ!ご注意くださいませ
平和な話です
街を歩けば、どこもかしこもピンク色の装飾に溢れている。心なしか甘い匂いも漂い、食品売場はこぞって同じものを並べだす。
やれチョコレートだ、やれ愛の告白だのと騒ぎ立てる声は、死神と称される男の精神を疲弊させた。
「もうきたのかよ…」
2月14日。
彼にとってこの日が意味するのは、甘い甘い愛のやり取りなどではなく、自身の弟の誕生日ということだ。
弟と再会するまでは、過去の穏やかな日々を否が応でも思い起こさせ、引き攣るような感情が生まれていたのだが、今となってはまるで別物になっている。
彼に異常な執着を見せる弟は随分前から誕生日を楽しみにしているようで、ちらちらと話題に上げていた。確実に彼の元へとやって来るだろう。
プレゼントをせびるくらいならまだいいが、幼少期のようなキラキラとした目で、殺しあいたい、兄さんの命が欲しい、などと言われて平気でいられる人間が、はたしているかどうか。
ここ最近会っていない事を理由に忘れたふりをしようにも、イベント違いとはいえここまでこの日が盛り上げられていてはそれも苦しい。
祝いたくない、というわけではないのだ。なんだかんだ言っても彼は、ラグナは弟のジンを憎みきってはいない。
誕生日くらいは、悲しそうだったり残念そうだったりする顔はさせたくないのだ。
さりとて、素直に相手の望むものを与えるわけにはいかず。
どうするかと悩み続け、ついにやってきたバレンタインデーもといジンの誕生日当日。
普通に仕事があるのだろうが、ジンがいつやって来るのかラグナはわからない。
身を隠してしまうのも憚られ、深刻な顔をして歩くうちに、どんどん時間は過ぎていった。
「マジでどうする…闘うか?いや、さすがにねぇだろ、いくらなんでも……」
どうしようもなくなり、入り込んだ路地裏のビルに背を預けて呟く。
ついでに溜息をついたところで、不意に、すぐ隣の空間が歪むのを感じる。
「チッ…ウサギか?!」
うだうだとしている自分を嘲笑いにきたのかと苛立たしげに空間を睨みつけると、そこに現れたのは幼い容姿の吸血鬼とはまったく違ったものだった。
女性らしいラインを惜しみもしない、真紅の服を着た女性。
ラグナの知り合いにも中華服を着た、似たようなラインの女性がいたが、彼女ともまた違った雰囲気だ。
訝しげな目をしたままのラグナを見ると、妖艶と表現できるような容姿だというのに、まるで邪気のない笑顔でラグナに声をかけた。
「ラグナ=ザ=ブラッドエッジ?」
「は?」
歌うような声だったせいで聞き取れなかったが、数瞬おいて、自分の名が呼ばれたのだと気付く。
自分の名を知っているのならば咎追いか、と剣を抜こうとするが、それをまるで気にせず、無警戒のまま女性が言葉を続けたせいで、その手も止まった。
「あら、違った?転送式は失敗してないと思ったんだけど」
「いや、間違ってねぇけど…あんた、誰だ?まさか咎追いだとか言わねぇだろうな」
「違う違う。ただちょっと手伝ってほしい事があるのよ」
自分で尋ねながらも咎追いではないだろうという核心はどこかであった。確かに武装はしていないが、それ以上の部分で、だ。
いきなり手伝いを求めるというのも怪しいが、危険そうな気配はしない。
一先ず抜きかけた剣を戻すと、女性はにこりと笑い、その手に自分の手を添えた。
振り払うにも、白くて柔らかい、戦闘から掛け離れた手を無下に扱えるわけもなく。
「ルカ。うん、こっちは大丈夫。……じゃあ、よろしくね」
女性が小さく、ラグナにはよくわからないことを呟く。
それを尋ねようと口を開くも、問いは路地裏に落ちることはなく。
瞬きの間に二人の姿は消え去った。
赤色と黄色の悪戯魔達に呼ばれ、ついていってしまった時点で逃れようはなかった。
急に遮られた視界と頭部に走った痛みにデジャヴュを感じ、今に至る。
「………どこ?」
太陽が近いような気がするのは、それだけ高度のある場所にいるのだろうか。
とりあえず人の流れにのって歩いてみてはいるものの、カイトは今自分がどこにいるのか、皆目検討はつかなかった。
どこか見たことがある場所に出ないものかという希望も込めて、建物を注意深く見ていたのだが、人波の途切れた広場らしき場所で、それは打ち砕かれる。
「えー…」
一見すると臨海公園のようである柵。
その向こうに、いや、―――その下には広大な大地が広がっていた。
それも、雲一つない天気だからこそ見える景色だろう。雲と同じくらいの高度のようなので、常ならば見れないはずだ。見晴らしがいい事この上ない。
どうやら山岳部の都市らしいが、カイトの知識にはこれほど高い山にある都市など存在しない。曲がりなりにも情報の坩堝から生まれた存在である。都市のようなそう簡単に変わらない情報を違えるはずはなく。
柵から身を乗り出して景色を眺めるカイトは、隣で自分と似たような格好をした少年を優しく諌める母親という実に和やかな図を見て、観念したように座り込んだ。
親子の頭部には、表情豊かで柔らかそうな猫耳がくっついていた。
「ほんと、ここどこ…」
アカイトとリンには去年もなかなか酷い目に合わされたが、今年はまさか別世界に飛ばされるとは、カイトは思ってなかった。
思わず半泣きで呟くと、あの、という労るような声と共に、肩を叩かれる。
なんだろうと、気力少なに振り返る。
「気分が優れないんですか?大丈夫ですか?」
「あ、いえ、そういうわけじゃ…?!」
優しい声に思わず泣きそうになるが、視界に入りかけた何かから全力で目を逸らす。
声をかけてきたのは、カイトとより僅かに年下だと思わしき、少女とも言えそうな容姿をしていた。
着ているのは青いポンチョだが、それはともかく如何せん立ち位置が悪い。カイトは座り込み、彼女は立っている。その下のスカートはもちろん、そしてさらに下にある存在まで際どい位置だ。
目を逸らしまくるカイトを不審に思ったのか、そうですかと離れる様子のない彼女に、カイトは襲い来るデジャヴュに焦りながらも、同じ轍は踏まんとして言い繕う。
「だ、大丈夫です。あ、いや、大丈夫じゃないんだけど大丈夫で、あー、うん、えーっと」
「………本当に大丈夫ですか?しゃがみ込んだのは体調が悪いからかと思ったんですけど…」
「だ、大丈夫です!ほら、立てますよ!」
彼女の言葉でようやく、立てばうっかり覗いてしまうこともないじゃないかと気付く。
そうすれば堂々と道を聞いたりできてどうにかなるはずと、連鎖的に解決策が浮かび上がり、カイトは勢いよく立ち上がった。
しかしこの時、二つの気遣いがさらにカイトの状況を悪化させた。
一つはカイトの、女性に対し失礼な事をしないようにという気遣い。
そしてもう一つは、無理に立たせてはいけないという、彼女の気遣いである。
スカートの中を覗かないようにしたせいで、カイトは目線を合わせた方が話しやすいだろうとしゃがんできた彼女に気付かなかった。
ゴン、という鈍い音。
ふに゛ゃあっ、という猫の鳴き声のような悲鳴と共に、彼女が倒れる。
頭頂部の鈍い痛みを堪え、なにが起きたかわからないカイトは、目を回して倒れている彼女を呆然と見るしかない。
数秒かして、自分が頭突きをしてしまったことに気付いたカイトはついにパニック状態に陥った。
「だ、大丈夫ですか?!すいませんごめんなさい!あーもうほんと俺なにやってんのもうやだああああ!!!」
彼女の側につき、とりあえず落ちてしまっていた帽子を彼女の頭にのせてみたり、真っ赤になった額にのせてみたりとよくわからない行動をするカイトに、周囲の人々がざわめいた事に気付けというのも無理な話だった。
周囲をどよめかせた彼は、つかつかとカイトに歩みより、冷えた声を吐き出す。
「なにをしている」
「へっ?!」
急に声をかけられたカイトは驚き、反射的に声の主をまた見上げる。
振り返ってから、相手がスカートじゃなくてよかったと思いつつも、その先にある顔を見て微妙な表情になった。
容姿が整っているせいで、このアングルに若干の不安がカイトを襲う。声からすれば男性なのは間違いないが、一言なので聞き間違えもありえるかも、といった具合だ。
いやでもさすがに、と落ち着こうとするが、彼の冷めた瞳がそれを阻む。
あわあわと戸惑うカイトに苛立ちを見せる事なく、彼は口を開いた。
「そこに倒れているのは統制機構の衛士だ。お前がやったのか」
「あ……」
「…………ついて来い」
「え?!こ、この人は…」
「お前が持て」
そう言ったきり歩きだしてしまう彼に、カイトは慌てて倒れている彼女を背負ってその後を追った。
彼を見ると人混みも割れていくことから、有名な人なのか、とカイトはあたりをつける。
そんな人の関係者に頭突きをするなんて…と頭を抱え込みたい気分になりつつも、ひたすらに後をついて歩いていると、人が少なくなったところで彼が止まった。
なにをするのかとカイトが彼の言葉を待つと、彼は今までの無表情にほんの僅かな喜色をのせながら、山の上層部を指差した。
「それを支部まで持って行け。そうすれば、お前はやってないと僕が証言しよう」
「え…?」
「言わなくてもわかるだろう。それは、曲がりなりにも統制機構に属する。それを気絶させたんだ、罰則は免れない」
「う……」
予想はしていたが、いざ突き付けられると罰則というのは恐ろしい言葉だった。
さっき彼が言った言葉を反芻すれば、彼女をあの山の上まで連れていけばそれを無しにしてくれるようだ。
なんだか悪い事の片棒を担がされているような気がしたが、カイトも自棄だった。わかりました、と返事をする。自分の誕生日にこの災難である。そうなっても仕方ない。
そうか、と彼は頷き、最後に付け加える。
「あと、僕についてはなにも言うな。なにを言われても、それが道に倒れていたから届けにきただけと言え」
「は、はい…」
返事を聞くと、彼は表情に徐々に嬉しさを増していきながら元来た道へと歩きだす。
とりあえず見送ろうとしたカイトだったが、上層への道を見て、あわてて彼を呼び止めた。一本道ならまだしも、入り組んだその道はたどり着くイメージを作らせてくれない。
思わず右手で彼の服を掴んでしまい、背負った彼女が若干ずり落ちる。
「すいません!」
「…なんだ。僕はやらなくちゃならないことがあ」
る、
と続くはずの言葉が途中で途切れる。
彼の言葉のその直前に小さな電子音がしたのだが、それは誰にも気付かれる事無く、三人を言葉の続きごと連れ去った。
≫後半
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