ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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面倒な部下が勝手に潰れていたので、嬉々として兄であるラグナを探しに行こうとした直後だった。
ノエルを押し付けた青髪の男がジンの裾を掴み、その直後に視界が青と白に呑まれる。
男のことはどことなく危険ではなさそうだとは思っていたのだが、それはあくまでも勘だったか、とジンは浅はかな自分に舌打ちをした。
青と白はすぐに霧散し、入れ替わりに見えてきたのは壁やテーブル。寝室のようだった。
「……?」
何が起きたかよく理解できず警戒していると、裾が下に引っ張られたのを感じ振り返る。
すると、ノエルを背負った青髪の男がへたりこんでいた。
よかった…と半泣きで呟く男は事情を知っているようで、ジンは裾を掴みっぱなしの手を掴む。
へ?と気の抜けた顔で男は見上げた。
「貴様…ここはどこだ」
「あ、ここは俺の部屋で、」
「なぜ僕をここに連れて来た。僕は兄さんを…兄さんを探さなくちゃいけないのに!」
「え?!あ、なんかごめんなさいでも待って俺にもなにがなんだかよくわかってなくて!!」
「うるさい!」
先程の無表情はどこへやらといった勢いのジンに、男はたじろぐ。
しかし、無表情よりも感情をあらわにしている方が男は恐れを感じないようで、激昂したジンに幾分か落ち着いた様子で語りかける。
「すみません。俺にはなにが起きたかわかってないけど、主犯は確実に俺の身内だから…」
「じゃあ僕をそいつの所に連れていけ。どうにかさせる」
「ど、どうにか…?」
「どうにか、だ」
「それって…」
男の青い瞳が、ジンが帯刀しているユキアネサを捉える。
ごくり、と唾を飲む音も聞こえそうな、真剣な表情だ。
男を見下ろしながら、ジンは猫撫で声で言う。
「お前もその主犯のせいで、さっきのような大混乱に陥ってたんだろう?」
「う…」
「しかも、一度や二度じゃないようだ」
「うぅ…」
「お前の鬱憤ごと、僕が晴らしてやろう」
「ううぅうぅ……」
ぐるぐるとした目からすると、そうとうな葛藤が男の中にあるようだ。
返事を待っていると、そう長い間も無く男はパッと立ち上がる。
どこか壊れたような清々しい笑顔だった。
「俺、案内します。赤い髪のやつならどうしちゃってもいいですから」
「赤い髪?」
「そうです。俺と同じ顔してるから多分すぐわかりますよ。じゃあ行きましょう」
あははははははとおかしな笑いをする男を先に、ドアへと向かう。
男がドアノブに手をかけたところで笑いがぴたりと止んで、思い出したように振り返る。
「俺は、カイトといいます」
「なんだ、急に」
「いや、復讐を手伝ってもらうのに名乗らないのもなんだなあって」
「…復讐を手伝わせるからこそ、名乗らないものじゃないか?」
「あー………そ、そうかもしれない」
気まずい表情をする男に、ジンはフン、と小さく笑った。
「僕はジン=キサラギだ。さっさと案内しろ、カイト」
ジンの返事にカイトは嬉しそうに笑い、ドアを開け「うぎゃあっ!」開けられた。
唐突に開いたドアは当然のようにカイトの額に直撃した。
ガツンというなかなか痛そうな音がしたが、それも後から入ってきた騒がしさに掻き消される。
「カイトにぃ、準備できたよ!」
「あと、えーっと、イサラギさん?もようこそ!」
「違うってリン。ジン=キサラギ少佐だって」
「あれ、そだっけ?ごめんなさい!でもレンはよく知ってるねー」
「だッ、だってこの人の曲歌ったことあんだから当たり前だろ!」
「お、なんだか素敵な女の子背負ってるねぇカイト。俺もおんぶしてあげたいなっ」
「何を言っているんだルコ。君はもう私を肩車しているんだから、そんな余裕はないだろう。やめておけ」
「テートー、俺がこの子おんぶするの嫌なら素直にそう言おうぜ!」
「だが断る!」
「それでこそだ!」
「とにかく二人とも、準備できたから早く早く!」
「いや三人?」
「まぁ一人くらい増えたっていいよね!」
「ち、ちょっとま、」
行こう!と手を引かれて部屋から出た。
カイトは見知った面々の相変わらずの騒がしさにようやく正気を取り戻したようで、額をさすりながらも笑いながらついていく。
しかしジンにとっては慣れないもので、急な話に思考が鈍っていた。
リン、レンと呼び合っていた金髪の双子にぐいぐいと引っ張られるがままである。
長くない廊下なのですぐに目的の部屋についたらしく、双子が楽しそうに、ドアを開いた。
「誕生日、おめでとう!」
軽やかな破裂音と一緒に飛んでくる紙テープをア然として見る。
いきなり見たこともない面々に誕生日を、しかもやけに親しげに祝われ、なにが起きているのかわからず、ジンの思考が完全に止まろうとした。
しかし固まりかけた思考でも、おめでとうに混ざったぶっきらぼうな声を逃しはしなかった。
「兄さんっ!!」
ドアの前にならんだ男女数人。
その後ろに立つ白髪を見てジンの目が輝きを増した。
ほらほら、と赤い服の女性――メイコにひっぱられ、ラグナはジンの前に出てくる。
「に、兄さん、なんでここに?」
「あー、まあ、いろいろあって、よ」
がりがりと頭を掻きながら目線を泳がせる。
無表情という言葉なんか知らない、といった風にラグナと会えた喜びを全身で表わしているジンに、ラグナは恥ずかしそうだ。
「そっか。でも誕生日に兄さんと会えたんだから、やっぱり兄さん、ころ」
「ジン」
周りにいた面々にせっつかれ、ジンが物騒な事を言い出す前に言葉に割り込む。
「誕生日、おめ でとう。あー、こいつらに台所かりてよ、飯、作ったんだ…だから、あー…」
「兄さん?」
じっと見つめてくる目に耐え切れなくなったのか、ラグナはジンの髪をくしゃくしゃとまぜっ返し、どこか不機嫌そうに言う。
「食ってけ。お前の分もある」
声色と言葉のギャップにジンは二、三度瞬くが、意味を理解してふわりと笑った。
「うん、ありがとう。兄さん」
「…いいから、食うぞ!冷める!」
ずかずかとテーブルにつくラグナにクスリと笑って、ジンがその隣に座った。二人のやりとりを微笑ましく見ていたメイコ達もそれに続く。
カイトが背負ったままのノエルをどうしようかと迷っていると、うん、と小さな声が漏れる。
「ん…あれ?わたし……」
「大丈夫?」
ぼんやりとしたノエルを気遣い、翡翠髪の少女が声をかける。
「ひぇっ?!え、だ、誰?!」
「ん、起きたのか。カイトー、この子任せてくれていいぜ。先食ってろ」
いつの間にか自分が背負われている事に動揺し、体勢が崩れたノエルを赤髪の男が後ろから支える。
でも、とうだうだ言いかけたカイトを言いくるめられ、ノエルはカイトの背中からソファーの上へと運ばれた。
リンとレンがカイトをテーブルに引っ張っていく。
「ミクねぇとアカにぃ、頼んだよー」
「もちろん!」
「あ、あの…」
ずっと気を失っており、蚊帳の外になっていたノエルがおずおずと口を開いた。
少女はことんと首を傾げ、どうしたの?とこたえる。
元から人見知りが激しいノエルは、言葉を出したはいいがじっと待たれてしまうとたじろんでしまう。
キョロ、と周囲をうかがえば、彼女の上司が嬉しそうに死神の隣の椅子に座っている。
和やかな空気では彼女の相棒を取り出すわけにもいかず、機嫌の良さそうな上司に助けを求めようものなら、機嫌を損ねて切り刻まれるのは確実だ。
言葉に詰まっていると、赤髪の男がニッと笑いかけた。
「よう、元気か?デコ真っ赤だけどいたくねぇ?」
「え、でこ・・?あ、いえ、大丈夫、です」
「そんならデコは何もしなくていいな。俺アカイト、こっちがミク。よろしく」
「ぁ、ノエル=ヴァーミリオンです」
「ノエルさん、おなかすいた?ご飯いっぱいあるよ。ラグナさんと私たちが作ったの」
「ご、ごはん?」
「あーでも、状況説明と飯どっちがいい?やっぱ飯?」
「いえ!状況の説明を先にお願いしたいです・・・なんでラグナ=ザ=ブラッドエッジと少佐がご飯食べてるんですか?というかなんで私はここに・・・」
「あー、ノエルがここに来たのはまったくの偶然だったんだけどな、」
アカイトが説明するには、カイトの誕生日を祝おうとしたのだが、料理を作ろうにも全員カイトに教えてもらっているので似たような味になってしまうという問題が起きた。どうせならば違う味を、手作りで御馳走したいということになっていたのだ。
どうしようかと悩んだ結果、だれか料理がうまい人と作ろうということになり、たまたまラグナに白羽の矢が当たったそうだ。
ラグナはラグナで同じく誕生日のジンをどう祝うべきか迷っており、料理の最中にそれを打ち明けたところ、一緒に祝ってしまえばいいじゃないか、という話になったらしい。
そして、カイトがいては準備がしづらいため、カイトをジンの迎えとして飛ばしたのだという。
「いやー、でもまさか誰かをおんぶする状況になってるとは思わなくて。ノエルには悪いことしたな!」
「・・・失礼ですけど、全然そう思ってないですよね?!なんで笑いながら言うんですか!!」
「ハハハッ。まぁいいだろ?上司のあんな顔見れたんだから」
「・・・」
確かになかなか見れないものだが、とノエルが口を閉じると、アカイトは勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
「それにおいしいご飯もたべれるよ、ノエルさん」
「だな。そろそろいいだろ?俺たちも腹減った」
「ラグナさんのご飯おいしいかったから楽しみ!」
「あ、ミクお前つまみ食いしたな!」
「でもアカイトさんもしてたよね?」
「う。あぁ、まぁ」
まだまだ聞きたいことがあったが、ぽんぽんと言葉を交わす二人の中にノエルはなかなか入れない。
黙り込んだノエルに気づいたミクが手をとり、無邪気に笑いかける。
「行こう?」
「・・はい!」
おずおずとノエルは笑い返し、立ち上がる。
誕生日パーティーはまだまだ始まったばかりだ。
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