ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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カイトお誕生日話その2
カイトとルコ
あの子は無事にあるべき場所に帰れただろうか、なんて事を考えていたら、若干ふらつく足どりで、メイトが再び部屋に戻ってきた。
その手にカップがなかったから、一回キッチンまでいってから戻ってきたんだろう。とりあえず一息。
「メイト、どうしたの?なんか忘れ物した?」
「ああ。俺、頼まれてた事あったのに忘れちまってたんだ」
そう言ってあっはっはと笑い、部屋の中に入ってくる。なんだろう、金魚の餌やりでも頼まれたのかな?
「よっし、行くかー」
「へ?」
屈み込んで、伸ばされた手は予想を裏切ってビニール袋じゃなく俺に。そしてそのまま、担ぎ上げられた!!??!?!?!!
肩が鳩尾に入っていたいんですけどってかどんだけ力あるのさ兄さん!
「ちょっ、メイト!どこいくの?!」
「まぁまぁ、気にすんなって。どうせすぐ着くから」
「……俺、腕が動かないだけだから歩くのは自分でできるんだけど」
「まぁまぁ、気にすんなって」
「………」
反論しても無駄だとわかったから黙って担がれていると、二つぐらい廊下を曲がった先の扉をメイトが開ける。
扉の中はさっきと同じような部屋で、紙が落ちてるところまで一緒だ。
なんか書いてあるみたいだなー魔法の呪文かなあははとか現実逃避をしてみようと思ったら、よっこらせ、とまた床に転がされた。
「よっし、お仕事完遂だ。それじゃあな、カイト」
「え……ちょっと待って!ここなに?」
「ごめんな。俺はお前をここまで運べって言われただけなんだよ。なんでかは、話そうとしてたけどめんどくさかったから聞いてない」
「ち、ちゃんと聞こうか!」
「まぁ、悪いようにはなんねーって。きっと」
「きっとって!やだぁああ!!」
バタリと扉を閉められて、その風圧で舞上げられた紙が俺の目の前へと着地した。
着地した紙にしかたなく目をむける。
[誕生日おめでとうカイトにぃ!]
[カイトにぃだけ捕まえようとしてたんだけど、]
[いそがしいのはみんなおんなじだったよ!残念!]
[結構みんな渡しに来る暇がなかったみたい。私もなんだけどね。]
[そんなわけでもうしばらく部屋の中ですごしてもらおうかと思ったんだけど、]
[なんかあの部屋使うみたいだから、移動してもらったの!]
[だけどその部屋も誰か使うんだって。]
[だからあとちょっとだけ延長って感じかな?誰かくるといいね!]
[それじゃあ!]
読み終わった途端、あの白いリボンのかわいい妹の顔が頭に浮かびましたよ。
うん、かわいい妹だとも!!
なんかもう脱力して、床に俯せになったままでいたら、とん、とん、と軽い振動が床を伝って届く。
誰がきたのかなと視線をやれば、ドアが開いた。
「こんちわー」
ひょこっと出てきたのは、二つに結んだ黒い髪に青いメッシュ。左右で色違いの瞳が転がったままの俺を見つけると、部屋の中に入ってきた。
なんだか下からのアングルがまたちょっと、うん!スカートじゃないのがまだ救いかな!!!
「おにーさんがカイト?あってる?」
「うん、あってるよ。君は?」
「俺はね、欲音ルコっていうんだ。テトの後輩!」
「ああ、テトの。えっと、失礼なんだけど、ルコ…ちゃん?君?」
「それはきぎょうひみつってやつらしいから、言っちゃだめな事だよ」
「そ、そうなんだ」
「俺ね、今日はカイトの誕生日を祝いに来たんだ」
「君も祝ってくれるの?ありがとう!」
今まで面識のない子だけど、祝われるのはやっぱりうれしい。
小脇に抱えていた、ふわふわとしたラッピングの袋を床におくと、ルコはなにかに気がついたみたいだ。
「カイト、腕縛られてるよ?」
「あ…うん、そういえばそうだった。俺も忘れてたよ」
「へー。とっていい?」
返事を聞かないままルコはしゃがみこんで縄を解きにかかる。いや、ほどかないでなんて言う予定はないけど。
見えないところで手首の辺りをひっぱられたりなんたりして、縄がすれて地味に痛いけど解いてもらってるから我慢。
んー、とかなんとか唸る声がしながら数分。
奮闘した結果、縄は俺の腕からスルリと抜かれて、やったね、とルコが満足げに声をあげた。
「と、取れた!ありがとうルコ!!」
「なかなかめんどくさい結び方だったけど、俺はやってやった!!」
久々な腕の開放感に思わず立ち上がって、手首をぷらぷらしてからぐいっと思いっきり伸びをする。
手首が変な色になってんのは見ないことにしたよもうとりあえず開放されたし!
「よっしそれじゃ、次はプレゼント!」
ルコは胡座をかいて床に座って、俺もその正面に座る。ふわふわした袋を取ると、ルカは伺うように俺の顔をみた。
「ねぇ、俺が代わりに開けてもいい?」
「うん、大丈夫」
「へへ、それじゃあ紹介しよっかな。俺からのプレゼントはこれ!」
口を縛っていたリボンをといて袋の中から取り出したのは、大きめの透明な瓶。詰まっているのは、色とりどりな飴玉だ。
単色な飴だけじゃないみたいで、ものすごくたくさん入っているのに、ぱっと見た感じだと同じ飴はみあたらない。
「すごいだろ?同じ味はないんだって」
「うん。それに、すごく綺麗だね」
「しかもな、寂しいカイトの為にこんなこともできるんだよ」
ニコニコしながら瓶の蓋をくるくると回して開けると、ルカは瓶をひっくり返して中身をぶちまけた。
「ルコ?!」
「だいじょぶだいじょぶ。飴ちゃんは全部包んであるから」
「あ、本当だ」
「こんでね、ほら、寂しいカイトの為にミクが来てくれたよー」
「え?」
散らばった飴の中から一粒の飴玉を摘んで俺の方に見せる。
飴玉は澄んだ緑色をしていて、なるほど。確かにミクの色だ。
ね?と笑うルコに俺もつられて笑う。
「ほら、寂しいカイトにはもってこいのプレゼント」
「うん、ありがとうルコ。リンとレンもいるみたいだし」
薄い黄色と濃い黄色の二粒を摘めば、ルコはさらにニコニコと笑った。
「他にもまだまだいるって。ほら」
ひょいひょいと色とりどりの飴の中からいくつかを摘んでいって、飴玉を掻き分けて作ったスペースによりわける。
これがけっこう楽しくて、微妙な色合いで、これよりこっち、いやこっち、なんて言いながら拾い出したのは18粒。
「ほら、みんな来てくれてるよカイト」
「あはは、ほんとだね」
「でもさ、これって何味なんだ?」
「え?ルコ、知らないの?」
「だってどこにもかいてないしさ」
たしかに、飴玉の包みも瓶も透明だし、どこにも書いてない。
「ま、予想すればいいでしょ」
「そうだけど、こんないっぱいあるんだから、変な味もありそうだなぁ…」
「とりあえずミクのはミントで、レンはバナナでリンはマンゴーとか」
「じゃあリクのはオレンジかな。でも、バナナ味の飴なんてある?」
「こんなにあって全部味が違うんだから、ありえるありえる」
「ま、そうだね。このテトのはいちごみるくで、メイコのはいちごで、メイトのは、んー」
「コーヒーでしょ。ハクのはきっと薄荷で、ネルはレモン」
「カイコのこれ…なんだろ」
「マスカット?」
「ああ、かも。帯人のは…ブルーベリーかな」
「ねぇ、シロイトのこれはさ、どう見てもミルクにしか見えないんだけどさ、似合わなさすぎる!」
「ニガイトのはメロン?アカイトは…こんな赤って思い付かないな」
「さすがに唐辛子はないと思うけど、裏をかいて唐辛子だったりするかもしれないよ」
「まあ、変な味みたいだから後であいつに食べさせるよ。復讐を込めて」
「このルカのは桃だね。絶対桃」
「あれ?マスターのは?転がってった?」
「にーしーろーなな。そうみたい」
「あー…」
「で、カイトのは無難にサイダーかな」
「あとルコのは、何味だろ?」
摘んだのは、ルコの為に作ったとでも言わんばかりの、赤と青が半分ずつになった飴。
他にもマーブルやらなんやらとすごい色のがあったけど、これもいったい何味なのか想像つかない。
飴を指先でくるくると回して弄っていると、ルコが手を伸ばしてきてそれを取った。
「思い付いた?」
「んー、わかんないけど」
ルコは悪戯っ子みたいにニヤッと笑う。
と、いきなり顎のあたりを掴まれてなにごとかと驚いている隙に口のなかになにか捩込まれた。
気がつけば、口の中にはじわじわと甘さが広がっている。さっきの飴を入れられたらしい。
「……普通に渡してくれればよかったのに」
「驚かせるのが楽しいんだよ。で、どんな味?」
好奇心に満ちた赤と青の目に見つめられながら、もごもごを飴を舐める。
「えーっと、ぶどう、かな」
「なにそれ、赤と青で紫になるからってこと?」
つまんないなー、なんて言ってぼやいて、ルコはあ、と顔をあげる。
「ね、俺がこれもらってもいい?」
「ん?全然いいよ?」
「へへ、ありがと」
そう言うと、指差していた多分ラムネ味を摘んでぽいと口の中に放り込む。味はやっぱりラムネだったらしい。
そろそろ片付けようかな、とからっぽの瓶を引き寄せたら、ルコがちょっと待ってとストップをかけて散らばっていた飴を掻き寄せる。
なにをするのかと思えば、ルコはそれを上に思いっきり放り投げた。そして飴は重力に負けて落っこちてくるわけで。
「ハッピーバースデイ!あと、これからよろしく!」
ルコが笑顔で降らせた飴玉は微妙に痛い。でも色とりどりの飴玉が降るのは、一瞬だけだけどやっぱりきれいで。
俺も笑顔でありがとうと、よろしくを言った。
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