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ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
 

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御礼文でヤンデレだらけ




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リクエストしていただいた、
大人に憧れるリン です。レンもいて、二人ともこっそりと病んでいます



空の色は淡くなって、顔にあたる風も少し涼しい。
夏の日差しと気温を思い出すと、なんだかんだでもう秋になったんだって実感する。
今日の夕飯当番はリンで、俺は当然のように買い物に付き合わされた。
ただでさえ面倒なのに、今日はセールだかがやってるらしくてものすごい人混みだった。俺が手を伸ばした鶏肉のパックを鷲さながらにかっさらってったおばあちゃんは何者だったんだろ…あれで普通の人間だったら俺は泣くしかないかもしれない。
それはともかく、激戦区を抜けて支払い済ませて、俺達はへとへとになって外に出た。
あー、リンはへとへとじゃないっぽい。握った俺の右手ごと、左手をぶんぶん振り回して歩いていく。
俺の左手には重たい買い物袋が握られてるから、振りほどく力を回す余裕もない。まあべつに、いいけど。
さっきまで人波にもまれていたせいか、足は自然と、人通りが少ない住宅街を通る道に向かった。
洗濯物はもうとりこまれて、橙色になった家。
その間に挟まっている廃屋を横切る。ぼろぼろになった看板からは、どうにか駄菓子って読み取れた。
その先の坂をたらたらのぼって、ようやく一番上についたら、リンが俺の手を引っ張っる。

「ねーレン、ここはいってみよう!」

俺の返事を聞かないで、リンがさっさと進んだ先は廃ビルだった。
簡易フェンスに若干あいてた隙間を無理矢理広げて、隙間を抜ける。
廃ビルといってもそう古いわけじゃなさそう。崩れそうな雰囲気はない。
薄く埃の積もったビルの中を見て回るでもなく、リンは階段を見つけるとすぐにそれをのぼっていく。
所々にある窓からひかれた橙色のラインは、上の階にいくほど微妙に薄くなってきてる。もうちょっとしたら日が沈むんだろう。ほんと、あっという間に夏は消えてく。
俺達は特に話しもしないで、汚れたコンクリートの階段を音をたててのぼった。
ちょっとしたらすぐに現れた屋上のドアは、鍵がかかってるわけでもなくて押したら普通に開いていく。
ただ、耳に残る嫌な音を出すから、俺は顔をしかめた。錆びた金属の音は、いやだ。
ちらりとリンを見れば、顔をしかめてる。当然だ。だってリンは俺で、俺はリンなんだから。全部同じってわけじゃない。リンと俺でひとつってだけ。これぐらいのこと、わからないわけない。
だから、こんなとこに来た理由も当たり前にわかる。
俺の手を放して代わりに錆びたフェンスを掴んで。リンは次にこう言う。

はやく、大人になりたい
「はやく、大人になりたい」

もうだいぶ沈んでる夕日を、リンは眺めてる。俺は、リンを見てる。
さっき、買い物に行ったときにふと思ったんだろう。それほどはっきりしたきっかけなんてなくて、ただ、思い出すみたいな感覚で。
いや、実際に思い出してるんだ。俺達はずっと変わらないってことを。
前もリンはいきなり似たような事を呟いて、その時は酷いことになったりした。
けど、今回は刃物とかはないからどうにかなる、かな。
俺の方なんて全然見ないで、リンは音をたててフェンスをゆする。
錆びた音。壊れて朽ちたものの音。機械である俺達にとっての死の音。

「私はどんな大人になるんだろう。背はどれくらい伸びるかな。胸は大きくなってほしいな。レンと顔とかも違くなっちゃうかな。レンが大人になったのが見たいな。一目でいい。声変わりもしちゃうよね。でも、もっと二人で綺麗に歌えると思うんだ。一緒に歌いたい。それでレンと一緒に歳をとって、皺が増えたとか、体力なくなってきたとか笑って、もう生まれたばっかの時と同じには歌えないけど、こんな風に歌えるようになったねって、笑いたい」

別にこれはいらないのに、なんてリンが呟いて、ゆするのとは違う音が生まれる。
フェンスは酷い音を出して無理矢理引き裂かれて、リンの手はいくつも傷ができる。でも、そこから血なんて流れない。だって俺達は、機械の塊だから。
致命傷を与えたフェンスを背に、リンが振り向いた。表情は、笑顔。泣きそうな笑顔。

「ねぇ、レン。こっから落ちたら、人間に生まれ直せるかな?」

後ろ手にフェンスを掴んで、リンがまた錆びた音を鳴らす。
引き裂かれたフェンスは、あと少しで、俺達が二人並んで入れる大きさになる。
俺はとりあえず、持ったままの買い物袋をリンに掲げて見せた。

「これどうすんの?みんなの晩御飯の材料なんだけど」
「メールしとこう。屋上に買い物袋置いときます、って。そうしたら、みんなが第一発見者になるかも」

想像したら面白かったみたいで、リンは小さく笑う。
ビルまで来て、こっから落ちてバラバラになった俺達が地面に転がってるのを見たら、みんな大パニックだろう。
そうしたらみんなこの買い物袋の事なんて忘れちゃうと思うから、中にあるチョコのお菓子は溶けきるだろうし、卵なんて腐ってひどいことになる。
あ、でもすぐに気づくかもしれない。遺書を探して屋上まで来てみたら、あるのは封筒のかわりに買い物袋。とんだブラックジョークだ。
そこまで考えて、リンが俺に伸ばした手に目をやる。
リンは俺がどう答えるかなんてとっくにわかってて、こんなことをするんだろう。
細かいできたての傷がいくつも入った手をとると、リンが口を開く。

「レン、一緒に大人になりに行こう」

緩く、右手を引く左手。
それに俺は、



逆らってリンを引き戻した。

「いいよ、べつに大人になんなくったって」

俺は老いたくなんか、朽ちたくなんか、変わりたくなんかない。
ずっとこのままでいい。どんな状況でもリンさえいればいいんだ。
人間みたいに変化していったら、リンがいなくなってしまうかもしれない。それは、いやだ。
リンは素直に俺の手に引かれて、フェンスまで2歩ぐらいの、俺の隣に戻ってきた。
つまんないのー、なんてこぼすリンは、いつもの顔。
つまんないもなにも、お互いにわかりきった事だった。何回も見た演劇を台本通りになぞるのと同じ。わからないことなんて、この前みたいな無意識に考えてた事ぐらいしかないんだから当然だ。

気がついたら、夕日ももう一つ筋を残すだけになってた。
いくら日が短くなってるにしても、そろそろ帰らないと晩御飯が遅くなる。
リンを見れば、とっくに気はすんだって顔で頷いた。

「帰ろう」
「うん、帰ろう」

手を繋いだまま、開けっ放しだったドアをくぐって階段を下りはじめる。ドアは閉めなかった。多分また嫌な音がするから。
一階分下りたところで、上から錆びた音がした。風でドアが閉まったんだろう。
追いかけてきた音を打ち消すみたいに足音をたてて、俺達は家に帰った。














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こっそりとラムネ鉄骨なつのおわりと対にしてしまいました。
イメージは、それぞれ根っこの深い隠れ依存×隠れ依存

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