ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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ぽつりぽつりと部屋に音が生まれている。
ゆっくりと、幾重にもなった薄紙を一枚一枚剥いでいくように意識がはっきりとしていくのを感じながら、カイトは自分がどこかの部屋で横になっているのに気がつく。
耳に入ってくる音を声と認識できるようになって、カイトは瞼を開けた。
視界に入るのは薄汚れた天井で頼りなく揺れる電球。ちらりと視線を動かせば、天井に近い場所に横に長い窓が見え、そこより下に窓はないので、この部屋が半地下だということがわかる。
どことなくじめじめとした雰囲気が漂う中で、そんなことを気にもせず二つの声が会話をしていた。
「 だ か ら 、もういいだろ?」
「どこがですか?いいわけないでしょう」
「だってもうやっちまったことだし、どうしようもねぇっての」
「たしかに彼はどうしようもないかもしれませんが、俺がここでよく言い聞かせておけば、アカイトは次はやらないでしょう?」
「意味ねぇって」
「・・・・はぁ。君は、メイコさんからの預かり物を壊しかけたって理解していないんですか?大変なことでしょう?」
「ま・・・まあ・・・」
「いえ、壊れてしまっているかもしれない。彼はまだ目が覚めていませんから。こんなことがメイコさんに知れたら、君は終わりですよ」
「お。お前もだろ!お前も焦れよ!!」
「俺は命ぐらいはどうにかなると思いますよ。別に彼を傷つけたわけじゃないですから。彼をきちんと治療できなかったということで、彼女からの仕事はなくなるでしょうけど。」
「お前が、こいつの傷は全部通り魔がやったって証言してくれる可能性は?」
「彼女に嘘をつくだなんて、それは俺が殺されてしまうので、無理です。君はお得意様ですけど、そこまでするほどの仲ではないでしょう」
「ぐ・・・・・・・そもそも、こいつがこんなに軟弱なのが悪い!刺されて転がってんのが悪い!つーか、すでに瀕死状態なら赤く点滅でもしてろと言いたい!」
「瀕死ってわかっていたら、傷口を広げて遊ぶような真似はしなかったと?」
「・・・・・・・ともかく、こいつ本当に起きてな、あ?」
「あぁ、目が覚めたんですか」
瞼が開いているのに気付いたようで、二人がカイトの視界に入る。
カイトは起き上がろうとしたが、脇腹に走る激痛に阻まれて結局は顔を歪めるまでに終わった。
しかたなく横たわったままでいると、彼を見下ろす白髪の男が口を開いた。
「はじめまして、カイト。俺はシロイト。闇医者をやっていて、脇腹の怪我を治療させてもらいました」
「あ、ありがとう」
「ちなみに代金はメイコさんのところからきちんともらうので、気にしないで大丈夫ですよ」
シロイトという男がそこまで言うと、反対側から手が伸びてカイトの頬に触れる。
不快感に顔をしかめると、その腕の主であるアカイトが、やや疲れた顔をしてカイトの頬をぺしぺしと叩いていた。
赤色の髪の彼はカイトの記憶が確かならば、カイトを気絶にまで追い込んだ人物である。
しかし先ほどの会話を聞いていると、そのことに関して突っ込んでいくのは酷く面倒に思って、カイトは気にしない事にした。
「なに?」
「いや、お前生きてるな?」
「あ、うん。たぶん」
そうか、と心底安心した顔でアカイトがカイトの視界から消える。僅かに聞こえた物音からすると恐らく、椅子にでも座ったのだろう。
なにか金属をいじる音がするなか、シロイトがカイトに大まかに彼の怪我について説明をする。それが終わると、カイトが最初の怪我を負うまでの過程を話し始めた。しかし過程といってもそう複雑で長いものではなく、むしろ酷く簡単なそれに、アカイトから呆れた声が上がる。
「酷いな、お前」
「アカイトの方が酷いでしょう。君の商売相手の、しかも上の立場の組織の人間にこんな怪我を負わせるなんて」
罰が悪そうにぶつぶつと文句を言い、しかしシロイトから何も反応がないことを知るとアカイトは大げさにため息をついて立ち上がった。
おい、と呼びかけてから、カイトの視界に一本のナイフをちらつかせる。
仕事道具としてナイフも扱うカイトだが、それは彼の覚えにない、むしろ一般的な家庭にもありそうなものだった。
どんよりとした空気のこの場所でずいぶんと不釣り合いなそれに、カイトはこれがいったいどうしたのかと問いかける。
「これ、お前に刺さってたやつ」
「それが?」
「最近ここらでウロウロしてるガキんなかにこれ持ってるやつがいるの見た。お前、金髪のガキに刺されたんだろ」
「そう、だけど」
「報復したいだろ?そいつらの居場所を教えてやる。条件付きだけどな」
「俺がやったことは見逃してくれ、ってとこですか?」
「うるっせぇよシロイト!・・・・まぁ、そうなんだけど」
「あー・・・ちょっと、俺の携帯取ってもらっていい?どこかにあったと思うんだけど」
「はい、どうぞ」
カイトはシロイトに渡された携帯で電話し始める。名前は言っていないが、その相手がメイコだというのは容易にわかった。
会話が全て聞こえず不安なのか、でもしょうがないだろー、と開き直ってアカイトがふらふらと移動する。部屋の隅に設置されている、様々な手術道具が入った棚の一つをあさり始めた。
彼自身が特に意味を持って行動を起こしているわけではなく、それを察したシロイトは、落ち着かない様子のアカイトに苦笑いをこぼす。
うん、わかった、そっちも元気でね。しばらく続いた通話は、この三言で締められた。
怪我のことを口走っていないかとアカイトは気が気でなかったが、カイトが喋っていた9割はただの雑談だったように思えた。
ふう、と息を吐いて、カイトがあの、とアカイトに声をかける。
「俺を刺した子の所、連れてってもらっていい?」
「ってことは、もちろん条件は?」
「飲むよ。元からそんなに気にしてないしね。それに今、メイコと話してたけど言ってなかっただろ?」
カイトの言葉に、アカイトは緊張が解けたように大きく息を吐く。
手にしていたメスを適当に戻してカイトに向き直った。
「それじゃあ、連れてく。・・・いや、めんどくせぇな。連れてくるから、待ってろ」
「アカイト、カイトは一応安静にしなければいけないのですが?」
「知るか。俺には一刻も早く安息が必要なんだよ」
そう言って、バタンと音を立てて部屋を出ていく。カイトの、しばらくしたらでいいんだけど、という呟きはその音に飲み込まれてしまった。
アカイトが出て行き、今まで面識があったわけでもない二人の間にはとくに話すこともなくなった。
持て余した時間の中で、シロイトが口を開く。
「君は仕返しなんてするのですか?俺にはそうは見えませんでしたけど」
「仕返しで呼ぶわけじゃないんです。ちょっと、メイコから仕事をもらったので」
「まぁ、何をするつもりだとしても、今は寝てください。君も早く治したいでしょう」
そう促されて、カイトは瞼を閉じる。
すぐさま訪れた睡魔に抗わず、カイトは意識を眠りに委ねた。
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そのうち続きを書く・・・かも
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