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ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
 

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狐な鏡音と池の主的なカイト
妖怪的なほのぼの(を目指したもの



黄金色の芒が、風に波打つ。
深い山の清水を溜めたように澄みきり、静寂を湛えた漆黒の夜空の天頂には、丸々と肥えた満月が浮かぶ。
闇は刻々と孕んだ艶を深め、夜を歩くもの達の心を踊らせた。

芒の流れに逆らって、二つの軌跡が野を駆けていく。
黄金色に紛れ端から見れば判断つかないが、それらは狐の耳と尾を生やした二人の子供――否、子供に化けた双子の狐達だった。
人を化かしてすぐに駆けてきたからか、姿も半端のまま芒野を掻き分ける。
狐達の向かう先は一つ。未だ人の手の及んでいない、この広大な芒野の中心だ。
向かい風を切って駆けぬけ、ようやく狐達の前をうめていた芒が晴れる。その先の思い描いていた通りの景色に、双子のうち少女の姿をとっている狐は、満足げに笑みを浮かべた。
一番長い所で百八十尺ほどの、楕円形の池。水面が夜空を映しているのか、夜空が水面を映しているのか、と疑問が浮かぶほどの澄んだ水だが、照らす太陽がないせいか、底は見えない。
狐達は丁度向かい側で迫り出している岩へと、池の淵を回り込む。走る双子が鏡のように池に映りこんだ。
岩には腰掛ける影があり、音に気づいたのか、影の視線が狐に移る。

「にぃ!」

狐の片割れが呼びかけ、池の淵を蹴って岩へと飛んだ。もう片方もそれに続き、岩の上には三つの影ができる。
黄金色の化け狐達に挟まれるように座っているのは、池の水と同じ色をした髪の青年だった。
一見してただの人間のような彼はしかし、池に浸した足先が水に溶けるように無く、腕に抱いているのは、ぼろきれのような着物を纏った、腐った屍だ。
狐はうれしそうに、持っていた包みを青年に掲げてみせた。

「今回もうまくいったから、一緒に食べよう!」

秋風に熱を奪われ、ひやりとした岩に双子の狐はそれぞれ座り、包みを広げた。
中には白い、小さめの団子がいくつもいくつも入っており、いつものように稲荷鮨や油揚げではない事に、青年は首を捻る。
駆けている間に、戯れに交わしていた言葉通りの反応に、狐達は顔を見合わせ笑う。
少年に化けている狐が若葉色の瞳を細めて、白い団子を一つ、白い指でつまみ上げた。

「今夜は、人間達にとって特別、月を愛でる日らしいよ。それで、団子を食べるらしい」

さすがの人間どもにも、特別な月はわかるらしいね、と団子を放り上げ、落ちてきたところをぱくりと食べる。
そうなんだ、と頷いて青年も団子を食べる。素朴な美味しさに目を細め、狐達に礼を言ってまた、月を見上げた。
髪と揃いの色の瞳に月を映し、まばたきする間さえ惜しい、というほどに月を見るその姿は、元々月を見つめるためだけのモノであるかのようだった。
狐達はしばらく、そんな青年を見ながら団子を口に運んでいたのだが、やがて、彼の藍色の着物の裾を両側から引く。
青年が、どうしたのかと視線を月から狐達へ移すと、少女の姿の狐が尋ねた。

「それ、戻りそう?」

狐が指した屍に目を落し、青年はそれの顔を撫でる。ひどく優しい手つきだというのに、腐敗した皮膚に指が食い込み、湿った腐葉土のような感触を伝える。
命から掛け離れたそれに青年は苦く笑い、狐の問いに答えた。

「まだ、だめみたいだ。今夜の月があれば、できるかと思ったけど」

たりない。と言葉を閉じる。笑みに覆われた表情の下にある陰りがどんなものか、狐達には読みきれない。
残り僅かになった団子をまた一つ口にほうり込み、嚥下してから、少年の姿の狐が尋ねた。

「それは、なんで食べないの?」

いつか、狐達は見たことがあった。
水面の美しさに魅せられ、池にのまれた人間の末路。日ごとに、しかし通常ではありえない速さで骨だけになり、水草に絡めとられ水底に沈んでいく。
夜の間は月を映し、美しく飾られる水面の下には、大量の骨が敷かれているのだ。
人を喰って、彼は、この池は存在する。
喰われた人間の肉は水に溶け、骨は池の内にしまわれる。池の化身たる彼を形作る事の価値は、この濁りのない水がまさに表しているだろう。
しかし彼は、愛おしそうに抱えた屍を喰おうともせず、ただ、戻そうとしている。喰えば、一つになれるだろうに。
それは確かな幸福といえるものなのに。

「そんなことをしたら、俺が堪えられないよ」

そう言って、青年は一つの幸福の形を拒む。
やや呆れたように、少年に化けた狐が相槌を打った。最後の一つの団子がもう片方の狐の口へと消える。
それからは会話も無く、芒を揺らす風にそれぞれの尾を遊ばせながら、狐達も月を見上げた。
すぐ隣が池だというのに不思議と水気が少ない空気は、満月をより大きく、より美しく見せているように思える。
しばらくすると、隣の気配が変わったことに気づいて、青年は双子を見る。
狐達が揃って岩の上に転がっていた。駆け回った疲れが出たのか、眠ってしまったようだ。
月の放つ強い力の影響からか、眠っても変化は解かれることなく、三角の耳は金の髪に埋もれたままだ。
双子のそれを撫でるように掻き分け、しっかりと外に出してやると、青年はまた月を見上げた。
その力を少しでも多く得ようと、瞳に、その身にしっかりと姿を写し取る。
満月は未だ青年に慈悲を与えず、ただただ美しかった。

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