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ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
 

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カイトとメイコ
個人的にはこれのずいぶん前の話。

律さんのお題をお借りしてますよ!!





森の奥深くに佇む廃墟。
天井が欠け穴があき、端々から雑草の侵入も受け今にも崩れそうなその廃墟。
唯一、浸食を免れている部屋があった。
ただ時の経過を感じさせる停滞したような空気の流れるそこに、不釣り合いな青い髪の青年が足を踏み入れる。

部屋の中央には人が悠々と入れるほど巨大な鳥籠が置かれており、その精緻な細工は重ねられた年月すらも装飾の一部だと思わせるほどだった。
その鳥籠の中に置かれた猫脚の椅子。座るのは色が抜け落ちたかのように白い、美しい女性。
胸元に白薔薇のコサージュをし、人形のように眠りについている。
敷き詰められるように彼女の足元に広がる薔薇も異様に白く、まるでたった今薔薇を撒いたばかりだという様にみずみずしさを保っていた。

廃墟の中のではありえない、溜息が出るような絵画の光景。
しかし青年は世界の理を逸脱した美しさを前にしても、ただ何かに耐えているような様子だった。
硬く力を入れた掌は開かれず、その青い眼はほの暗い感情が蠢いている。
それら全ての感情を押し込めるように瞬きを一度した後、青年は鳥籠の中へと足を踏み入れた。

サクリ、青年の踏んだ白い薔薇が、彼によって時間の流れを思い出したかのように急速に枯れ行く。
枯れた花弁を静かに踏みつけながら、青年は女性の白い頬をそっと撫でる。彼の手もまた、色を失ったような女性のものとは別の、病的な白さをしていた。
きめ細やかな肌触りが、彼女がけして人形などではない、命あるものだということを青年に伝える。
その感触に彼は意を決したように、白薔薇のコサージュへと手を伸ばした。

純白のその花弁。その白は指で触れた場所から燃え移る様に、腐敗する様に血色の赤が染み込んでゆく。
赤の浸食はコサージュだけに止まらず、そこを中心に女性全体に沁み渡りはじめた。
肌は生命の温かみを増し、爪の先を赤く染め、唇に火をともす。
暖かな赤が彼女の全身を廻り終え、血色のよくなった瞼がゆるりと開かれた。
赤茶の瞳は目の前の青年を捉え、人ではありえない鋭さをもった犬歯を見せて、嗤った。

「  どれくらい、 私は死んでいたのかしら ? 」
「 随分と、長い間だよ。それはそれは長い間。数えることも無意味なほどに」
「 そう 」

赤を纏う女性は流れるような動作で椅子から立ち上がる。
それと同時に彼女の背に変化が現れた。
部屋に漂う退廃した空気を集めたような黒い骨に、闇色をした薄い飛膜が埋めていく。
バサリと一度、完成した翼の具合を確かめるように音をたてて空気を舞わせた。
その間に遊ばれる枯れた白薔薇にもまた赤が移り、再び生気を取り戻す。
舞い踊る赤い花弁の中を彼女は悠々と歩き、鳥籠を抜け崩れかけた窓枠に腰をおろして空を見上げる。

「 綺麗な満月ね」
「 久し振りだからそう思うんじゃないかな?」
「 そうかもしれないわ。でも、綺麗な事には変わらない」

月を見て微笑む優美な薔薇の女性に反し、青髪の青年は薄汚れた壁に背中を預け、ずるずると座り込む。
その姿にちらりと彼女は視線を移すも、気にせず言葉を紡ぐ。

「 今度は何をしようかしら?楽しみで仕方がないわ!」
「 あなたの 好きなようにすればいいよ だけどごめん 俺ちょっとだけねむるね」
「 私は起きたばかりなのに?」
「 ごめん、 きっとすぐにもどるから」
「 いいわよ、そんなの気にならないもの」
「 ならよかった。あぁ、これはてきとうにつかっていいから」

そう呟いて青年はポケットに入っていたケースから真っ赤な錠剤を何錠か取り出す。


「 それじゃあ また 。 」


錠剤を無造作に噛み砕いて嚥下すると、青年の瞼はゆるゆると落ちて行き、やがて動きを止めた。
黒赤色の女性は動かなくなった青年に静かに近寄り、優しくその青い髪を撫でた。
やわらかな光はその部屋の中には届かず、彼女の表情をうかがうことはできない。


「 この馬鹿は、私が本当にそう考えてると思ってるのかしら?」


呟きは部屋の中に静かに転がり落ちる。
それを拾う者は、その部屋の中にはもういなかった。














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薔薇
羽化

甘い甘い悪夢を
総ては女王陛下の為に
罪と罰の螺旋

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