ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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ボカロVS竜なお話
ファンタジーな世界観でただひたすら戦っております
需要があるとは思えない内容ですよ
しかも無駄に長い
「う、わぁ…」
「これはちょっと……きつくない?」
旅人を襲うという魔物の討伐依頼を受けたのだが、彼等はその魔物を見てたじろいだ。
いつもならばわーわーと騒いでいるはずの双子が唖然とした様子で呟くのだから、相当なことである。
「あぁ、もう…だからちゃんと依頼内容を確認しておこうって言ったのに……」
「うるさいわよカイト!まさか、魔物って書いてあるのにこんなやつが出てくるとは思うわけないじゃない!」
深い森の中、ぽっかりとあいた空間の手前で彼等はその中心に居る存在を見つめる。
太く逞しい四足の上には森の木々の色をした体。背に翼こそないものの、鰐のような頭部に王冠かと見紛うほど立派な角に、長く伸びた尾、その威風堂々とした姿は、どこからどんな生き物がどうみても、魔物の生態系でも上位に位置する、竜だった。
竜の討伐など、本来は王に仕える者達が数十人がかりでやるような仕事である。なかなか名が売れているという自覚はあるといえ、たった五人だけのパーティーであるメイコ達にこの仕事は重荷すぎる。
「どうしよっか。これって依頼の説明不足だからって断ってもいいと思うよ」
「でも、一度受けた依頼は完遂するのが私達の売りなのよねぇ…」
「いやいやメイコねぇ。死んじゃったらもともこうもないから」
「せめて装備もっといいの持ってこようよー」
「そうね…またここまで来るのは面倒だけど、それが一番無難かしら」
ちらりと竜を見ると、まだメイコ達には気付いていないようだ。
今ならまだ逃げれると判断し、一端街まで戻ろうと決めて振り返った五人の目の前には、不思議な生物がいた。
「きゅう」
「え?」
中型犬ほどの大きさの、木の色の鱗をもった蜥蜴に見えた。
だがしかし、頭部に生えた角に、既視感がある。
「ねぇ、お兄ちゃん。この子って、もしかして…」
「うん、多分そうだと、」
「きゅうう!!」
大きな鳴き声をあげた魔物は、がさがさと慌ただしく草の中を抜けてカイト達の進行方向とは逆に、つまりは竜の居る方へと走る。
その小さな存在に気付いた竜がむくりとこちらを向いて、次の瞬間には森全体を震わせるほどの咆哮が鳴り渡った。
「やっぱりか!!」
「あんな堂々といるやつをなんで避けられないのって思ってたけどさ、あの小さいやつのせいかよ…」
「メイコねぇ、どうする?」
どすん、どすんと振動を伴って近付いてくる竜を見て、リンが尋ねる。
メイコの表情は、表面上には諦めが埋め尽くしているが、その中に期待と高揚が隠されており、それを読み取った四人は彼女がなにを言うかわかりきったようなものだった。
「もちろん、見つかっちゃったなら討伐開始に決まってるわ。ほら、こんな動きにくいとこから出るわよ!」
「やっぱりー?!」
「だよねー!!」
泣き言を言いながら竜の方に飛び出すと、それぞれの武器を構える。
竜の方も歩みを止め、メイコ達の動きを伺っているようだ。
つかの間の静寂。
それを破ったのは、朗々と響き渡る歌声だった。
いや、歌声のような、呪文の詠唱 。
ミクの咏い上げる旋律にカイトの、リン、レンの、そしてメイコの音が重なる。
魔を込めて咏われる音は次第により強い魔を呼び込み、竜の周囲を白色の鎖として取り囲んでいく。異質な空気に対して振るわれた竜の尾も、その結界に阻まれる。
そして、その美しい歌声が終結したその瞬間。
結界の内側を、白い光が暴れた。
轟音と共に生まれた強い光に飲み込まれるように竜の姿が見えなくなり、結界がただの白い半球となる。
「これで、半分くらいダメージ受けてるといいんだけど…」
魔を込めた歌のせいであがった息を整えつつ、ミクが呟く。
徐々に消滅していく白い光。
そこにいた竜は、しかしミクの予想を裏切り、ほとんど無傷だった。
「うそ?!」
「なんだよ、魔法耐性強すぎだろ…」
「……行くわよ!!」
「ああ!」
「ミクねぇ、加速の魔法よろしく!」
「うん!」
高く空に吠える竜に、ミクを除いた四人が走る。
後から響いた新たな歌により動きの加速したリンとレンが、暴風の荒々しさで振るわれた尾を擦り抜けて竜の胴体に爪とダガーで切り付けた。
それに反応して竜の頭が二人に向いた隙に、メイコの大剣が竜の右前足を打ち、そこからどくりと竜の血が溢れる。
双子を喰らおうと閉じかけた顎をすんでの所でカイトの片手剣が割り込み、その間に他三人が後退。それを確認したカイトも竜との距離をとる。
「いがいと遅い?」
「そうね。でもやっぱり竜は硬いわ。切り落とすつもりだったのに」
「私の爪も、あんま手応えなかったよ」
「あぁもう…めんどくせ!」
武器を握り直し、駆け出そうとしたレンに、後方からミクが叫ぶ。
「レン、だめ!」
ぶくりと竜の喉元が膨れ、その顎が開く。
鋭い牙の隙間から漏れる強い光に、五人に悪寒が走る。
カイトがレンの襟首を掴み引き寄せ、メイコとリンが竜の口腔の直線上から転がり出る。
閃光
さきほどの魔法と同じ類の光だが、結界ごしでない分だけさらに目に痛い。
光が掻き消えると、直前で張ったのか、半透明のシールドの後ろでレンを抱え込むようにしたカイトがそこにいた。
シールドを張ったといえども相手は竜のブレス。ダメージは、軽減されているだろうがそれでも大きく、カイトの背がよろりと傾く。
「カイトにぃ!レン!」
叫んだリンに竜の尾がせまり、二人に気をとられていたリンは質量の圧力に気付いたもののなんの対処も出来ずに勢いよく飛ばされる。
飛んできたリンをかろうじてメイコが受け止めたが、その衝撃を殺しきれず二人は林の中に突っ込んだ。
動かないままでいたカイトとレンに向かって、竜が悠々と近づいていく。
「だめ!」
その牙が二人に届こうかというところでミクの歌が紡がれ、生まれた突風によって無理矢理カイトとレンを吹き飛ばして竜との距離をあける。
その直後にまた新たな歌を紡ぎ、カイトとレンを柔らかな光が包む。
癒しの魔法により意識を取り戻した二人にミクは安堵するが、歌を紡ぐ事に集中していたせいか、竜が突進してきていた事に気付けなかった。
勢いよく近付いてくるその角に、ミクは身動きがとれない。
だが竜の角に貫かれるより前に、横から駆け込んだレンのダガーが竜の左目に突き刺さった。
ぎぁあああうと叫び、でたらめに振られた角がレンを強く打ち飛ばす。
木の幹に当たったレンはその衝撃に、空気と共に赤い血を吐いた。
レンが竜に向かっている間にミクを助けに行っていたカイトはくっと歯を食いしばる。
そのままミクをメイコ達が突っ込んだ茂みまで連れていった。
「ミク、二人の回復よろしく」
「うん。でもお兄ちゃんは?」
「俺はさっきやってもらったから大丈夫。それよりレンを助けに行かないと」
そう言ってまた飛び出していったカイトは竜の攻撃を避けるレンの加勢にと走る。
先程の魔法がまだ効いているのか、スピードではレンが勝っているが受けたダメージのせいで時折よろけている。
短い歌を紡いで自らの剣に炎を帯びると、それをレンに気を取られている竜の腹部に突き刺す。
体を内側から焼かれる感覚に竜が悶え暴れてカイトを狙うが、突き刺した箇所の脇を蹴りつけその反動で傷口を広げながら剣を抜き去る。
焼かれたせいで血は噴出しなかったが、焦げた臭いが辺りに漂った。
地面に着地しようとしたところでブレスのダメージのせいか、僅かにカイトの姿勢が崩れる。
そこをすかさず竜の尾がたたき付け、地に伏したカイトに顎が開かれた。
数瞬意識を飛ばしていたカイトが、顎が閉じられる直前に体を転がして直撃をさける。
「っ…!」
しかし左肩から肘にかけて牙が引っ掛かったようで、カイトに激痛が走る。
剣を持つのとは違う腕だが、これでは戦うのに支障がでる。起き上がって距離をとったカイトを、竜は追随する。
戦っているうちにミク達との間に竜がくるような位置関係になってしまったことにカイトは舌打ちをした。
唯一見える右目でカイトを睨み付けるその視線だけで体が凍り付きそうだった。血と共に力が抜けていく感覚に、痛みよりも気持ち悪さを覚える。
「カイトにぃ!」
ぐるりと竜を迂回してカイトの側にきたレンが傍らに並ぶ。
両手にあったダガーは今は右手のみに握られ、口の端には血を拭った後がある。
カイトのずたずたの腕を見てレンは顔をしかめた。
互いに満身創痍なことに僅かに苦笑して、二人はしっかりと武器を握り直す。
「さっきの右前足、いくよ」
「りょーかいっ」
カイトが素早く紡いだ歌により、レンのダガーが炎を、カイトの剣が冷気を纏う。
それを確認して竜へと駆ける。
振るわれた顎をカイトの剣が受け止め、剣と竜が触れ合う箇所から冷気が侵食し竜の顎が凍りついていく。
片腕に全体重を乗せ竜と拮抗する数瞬。レンのダガーが、メイコの作った右前足の傷口に深々と突き刺さる。
そのまま両腕で力を込め、引き裂きながらダガーを抜き去ると、竜のバランスがぐらりと崩れる。
傾いでくる竜を後ろに退いて避け、そのまま距離をとる。
ぐあぅ、ぎぁうと声を上げる竜の喉元がまたぐぷりと膨れた。
漏れる白色に二人の背がぞわりと震える。
「はぁあああああ!!」
だが顎が開かれようかというその時、反対側から小柄な影が竜に飛び掛かる。
地を蹴り飛び上がったリンの踵が竜の左目に突き刺さっていたダガーの柄に叩き込まれ、苦痛と衝撃により強制的に上に向けられた顎から、空に向かって白光のブレスが放たれる。
くるりと空中で一回転して、リンはカイトの横に着地した。
どくどくと左目から血を撒き散らしながら三人に向かってくる竜に、さらに横から衝撃が襲う。
大剣がその牙元を切り付けたのだ。
竜が悶える隙に四人は走ってミクが居る側へと回り込む。
「カイトにぃ、レン、ごめんね。遅くなっちゃった」
「ほんと、あなた達ばっかに頑張ってもらっちゃったわね」
「でも、ミクねぇにちゃんと治してもらったから大丈夫だよ!」
そう言うリンの手には、先程までしていた爪はなく、代わりに血は止まっているもののえぐられたような傷がある。
メイコも不敵に笑っているが、鎧の隙間から突き刺さったのか、脇腹から覗く木の枝が痛々しいかった。
その様子に、カイトは苦く笑う。
「みんな満身創痍ってわけだね」
「まだ動けてるんだからなんでもないわよ。カイトもそうでしょ?」
「まぁ、そうかも」
「あのね、ミクねぇが残った魔力全部使って魔法を今詠唱中なの」
「え?でも魔法は効かないんじゃないの」
「多分、最初のは相殺されただけなんだと思う。だってカイトにぃとレンの攻撃効いてたでしょ?」
「ああ、そっか。じゃあ時間稼ぎだ」
「だけどもしもの為に、ちゃんと削っとかなきゃいけないからね?レンも手を抜いちゃだめだよ」
「はいはい」
ようやくこちらを向いた竜に武器を構える。ゆっくりと森に染み入る音を背に、四人が走る。
左側に回り込んだリンが竜の顎を蹴り上げ、カイトがそのあいた空間に入りこみ切り付ける。
退避しようとした二人に左前足の爪が迫り、剣でカイトが受け止めようとするが間に合わずに脇腹をえぐられる。
その様子に歯を食いしばり、生まれた怒りを込めて二人を追撃しようとした尾にメイコは大剣をたたき付ける。
ぶつんと断ち切れた尾は勢いよく宙を飛び、少し離れた地面でのたうつ。
力を込めたせいで生まれた激痛に堪え、二撃、三撃と大剣を振るう。
しかし尾を失い全身を使って暴れる竜に、メイコの剣が弾き飛ばされる。
カイトとリンを吹き飛ばし、向かって来た角がメイコを狙う。
その進行方向を逸らすためにレンが竜の背を駆け上がり、竜の首元にダガーを突き刺し、それを踏み付け地面に着地した。
狙い通り竜の角はメイコに当たらなかったものの、首への攻撃もろくに効かないのかとレンは辟易する。
メイコは退避したものの、暴れ回る竜が地面に倒れるリンを角にひっかける。
「なっ…!」
刺さってはいないもののそのまま遥か上空に振り飛ばされたリンは、たたき付けられたらひとたまりもないだろう。
再び竜の背を蹴って飛び上がり、レンは空中でどうにかリンを抱え込む。
だがその二人を狙って、竜の顎が白光を伴って開かれようとしていた。
空中では避けようがないと、レンはそれでもリンを守るために強くだきしめる。
その光が放たれる直前、開ききった顎に剣が突き立てられた。
「ふっざ、けるな!」
その剣を持ったカイトの右腕は竜の牙によって肉を削られ、えぐられている。
勢いよく押し込まれた剣により暴走した光が、竜の中で暴れ回る。
腕を引き抜いたカイトがそのまま後ろに飛びのくと、竜の口腔からは光ではなく大量の血が吐き出された。
空中にいたリンとレンが地面へと落ち、勢いを殺すためにごろごろと転がる。
その間も血を滴らせ続ける竜を、メイコとカイトがきつく見つめる。
もう四人の手に武器はない。だがここで竜が止まってくれれば、それで勝ちだった。
ミクの歌はまだ続いており、いつ完了するかはメイコ達にはわからない。
竜が動きだしたら、数十秒しかメイコ達は止めることができないだろう。
竜の顎が、空を向く。
開いたそこから、咆哮。
喉に剣が突き刺さっているのも構わずに、命のかぎり吼る声。
その衝撃はビリビリと森を揺さぶり、唯一開いた右目がメイコに悟らせた。
そこにあったのは強い殺意。この竜は、まだこちらを殺そうとしている。
それならば、とメイコは力を寄せ集め、竜に向かい、構える。
カイトは既に腕が動かないと理解しながらも、意識を失ったリンとレンの壁として立つ。
竜が再び、顎を開いたその時、
音が、止んだ
一瞬の空白の直後に、気付かれないほど森に浸透していた魔の音が、竜へと集束する。
取り囲むのではなく竜の中心に入り込んでいく翡翠色の光が全て竜の内側に納まると、竜の体から、翠色の炎が噴き出した。
轟音を伴うその炎は断末魔さえも飲み込み、瞬く間に竜を焼き尽くす。
暴れることもできずに竜が崩れ落ちると、炎は何事もなかったかのように消え失せ、ただ黒ずんだ竜の体だけが残った。
その光景に、メイコとカイトはようやく力を抜いて地面にへたりこんだ。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん!!」
声をあげてよろよろとミクが駆け寄る。魔力を全て使い切ったせいで蒼白になった顔に、涙を浮かべている。
「あぁ、ミク。大丈夫?」
「私は大丈夫に決まってるよ!そんなことより、みんなっ……!」
「私も大丈夫よ。そこまでひどくないわ」
「俺もだよ。リンとレン、みてもらっていい?」
「、うんっ」
覚束ない足取りで二人の元へ行くミクを見送って、カイトはメイコに声をかける。
「……どこが、そこまでひどくないって?」
「……なによ。あんただって、構えられないぐらいなのに、ひどくないってどういうこと?」
「……………」
「……………」
互いに無言になった二人の間に、妹達の声が届く。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん!リンもレンも目が覚めたよ!!」
「生きてるー!」
「お腹減ったー!」
その賑やかな声に、二人はクスリと吹き出した。
「ま、生きてるからいいよね」
「そういうことにしときましょうか」
報酬なににつかおっかなーとこぼすメイコに、全部酒は勘弁してねとカイトが笑った。
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「ねぇメイコ」
「ん?」
「あのさ、どうやって帰る?」
「・・・魔法は?」
「ミクも俺も魔力ないよ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「もう、ここに住んじゃいましょうか」
「・・・・勘弁してよ」
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