ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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ミクとカイト
おうちでのんびり
とん、とん、と心地いい音がキッチンから聞こえてくる。
窓から見える空は、薄曇りに夕焼けが映ってピンク色だ。
最近はお仕事が早く終わったりすることが多くなってきた。ちょっとだけ寂しいけど、でも、いいや、なんて思えるようになった。だって私はまだ歌ってるから。
それをこの前お姉ちゃんに言ったら、そう、と言ってちょっと難しい顔で笑ってから頭をなでてくれた。
これって良いことなのかしらね、ってお姉ちゃんがつぶやいたのが聞こえたけど、独り言みたいだったから私は聞かなかったふりをした。
お仕事が少なくなったのは 良いこと なのか、私はわからないけど。でも最近、ちょっとした事がちょっと変わった。
とん、とん、という音の他に、煮物のおいしそうな匂いが漂ってくる。ねっころがった絨毯はさわり心地がちょっと荒いけど、ソファの上のクッションは掴むとふにふにして気持ちいい。いつのまにか、まわりから受け取る情報がちょっとずつ増えてる。
ちょっと楽しいな、と思う。なんでこうなったのか、私はわからないけど。
さっきまでルカお姉ちゃんの髪みたいなピンク色だった空は、今はカイコお姉ちゃんの髪みたいな藍色になってた。
そういえば、まな板を叩く音もいつのまにか料理道具を洗う音になってる。煮物の匂いはまだまだしてる。
後片付けも終わらせたお兄ちゃんがソファに座った。私がクッションを掴んでるのを見て、はい、とクッションを渡してくれた。
別にクッションがほしかったわけじゃないんだけど、でもいいや。ぎゅーっとしてふにふに感を受け取る。いいなぁ。あ。
「お兄ちゃん、今日の煮物、」
そこまででお兄ちゃんは私が何を言おうとしたかわかったみたいで、あぁ、と苦笑した。
ゆっくり漂ってくる匂いに、葱の匂いがなかったから。この反応は、やっぱ入ってない、の、かな。
「今日は煮物に葱入ってないよ。匂いでわかった?」
「うん」
やっぱそっかー。ちょっと寂しい気分。よーく煮込んだネギは、それはそれはおいしくて、それもお兄ちゃんが作ったのはほっこりして、すごくすごくおいしいのに。
あんまり残念だったからクッションをぎゅーっとする力も抜けちゃった。ぱたん、と両腕が絨毯の上に。クッションのふにふにが恋しいけどそれは今私のおなかの上あたりだ。
葱が無いのにあんまりショックを受けてると、レンはきっとへこみすぎだよって呆れるんだろうなぁ。でもレンだって、バナナが入ってないおやつのマフィンはしょんぼりしながら食べてる。きっと私と一緒だ。
バナナマフィンはお兄ちゃんよりもリンの方が上手い。リンはなんで、黄色い料理はおいしく作れるのに他はからっきしダメなんだろう。
ちなみに私の作る料理は、なかなかおいしいと思うんだけどみんなおかしな顔をする。みんなの感想はいつも 葱 。別に変なとこはないのに。
あぁ、それにしても、今日は葱の煮物が無いのかー。
「煮物にはないけど、」
「 ? 」
「後で焼き葱しようと思ってるから、葱あるよ」
「ほんと?やった!」
棚から牡丹餅?ちょっとちがう?でもとにかくうれしくなって絨毯の上をごろんごろんぐるんぐるん。
行ったり来たりしてるうちにお兄ちゃんの足にぶつかって、危ないよ?って笑われた。でもうれしいから痛くないんだよお兄ちゃん。
でもちょっと疲れて、転がった勢いで遠くに飛んでってたクッションをぐるごろ移動して捕まえて、ふにふにしながらお兄ちゃんの足元に転がって戻る。
ごろごろをやめたら自然と鼻歌が出てきて、お兄ちゃんがにこにこしながら私を見てた。
なんだかふかふかした気分。多分これが幸せなんだーって歌える気がした。歌ったらきっとレンが呆れながら一緒に歌ってくれるんだろうな。そうしたらみんなも歌い始めて、もっともっと幸せになるんだろうな。
やっぱり葱っていいなぁ。
「いつ焼くの?」
「んー、メイコが帰ってきたらかな」
「他の3人はお仕事だっけ」
「うん、遅くなるから先に食べててってさ」
「そっかー」
みんなでご飯じゃないのはちょっと寂しいけど、一人でご飯じゃないから寂しくない。
もしかして、このちょっと寂しいののためにお兄ちゃんは焼き葱するって決めたのかもしれない。そう思い始めると、甘やかされてるなぁってほわっとする。ちょっとむずがゆいけど、結構好きな感覚。
それにこの3人だけでご飯食べるのも久しぶりな気がした。
リンとレンが来てからは5人、ルカお姉ちゃんが来てからは6人いるから、他にも人がいたり私がいなかったりしたから、3人だけなのは、リンとレンが来る前以来かもしれない。それにしても、あの時はみんな結構忙しかったから一緒にご飯はあんまりなかったけど。私がご飯食べてるときに、もうご飯食べ終わった二人がテーブルでお酒のんでたりアイス食べたりはしてたけど。
ほんと久しぶりだなぁ、と思うと、 久しぶり が使えるほど私はここにいるんだ、って気づいた。
なんだか急にちょっとどきどきしてきてわくわくしてきて、早くお姉ちゃん帰ってこないかなぁと思う。
早く帰ってこないかなぁってお兄ちゃんに言ったら、ミクはほんとに葱が好きだね、って言われた。
それだけじゃないんだけど、ね。
まぁ今はお兄ちゃんが気づかなくてもいいような気がした。お兄ちゃんに気づかれてなくても、私はこっそり成長しているのです。
いつかそれに気づいたお兄ちゃんがびっくりして、それでも笑って頭をなでてくれたらいいな。
でもとりあえず今は、ふにふにクッションをぎゅっとしながら焼き葱を待ってよう。
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