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ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
 

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吸血鬼なお話その2
といっても時系列は水底よりも大分昔な感じだし繋がりは全然無いです

カイトと鏡音





ぴくり、と指先が痙攣し、ゆっくりと瞼が開かれる。
その下に隠れていた鮮やかな緑の瞳が、布団の向こうに彼女と同じ金の髪を捉えた。
壁にかけられた時計を見れば、針は調度それぞれ12を指している。
少し眠りすぎたかな、と少女は隣で未だ眠る少年に手を伸ばした。

「レーン、もうこんな時間だよ?起きなきゃ」
「ふぇ?」

少女の小さな細い指は少年の白い頬を摘み、その痛みで目が覚めたらしいレンは間の抜けた声を上げた。
きょろ、と同じく緑色の瞳が動いて時計を映し、少女の向こうにある開け放たれたままの窓を見る。
レンが何か喋ろうとしている事に少女も気付き、指を彼の頬から放した。

「今日は、満月だ」
「うん。だから起こしに来るの忘れちゃったんだよ」
「まぁよくある事だけど。でもリンより起きるの遅かったのかー…」

やや悔しそうにそう言ってベットから下りると、レンは大きくのびをして骨をぱきぽきと鳴らす。
それに続いてリンもベットから下り、机の上にあった白いリボンを慣れた手つきで頭につけた。本当は軽く寝る予定だったので着ている服はそのままだ。
古めかしくも美しい銀の装飾が施されたドアノブを捻り、二人はそろって部屋から出る。
部屋の正面は1階から4階からまでの吹き抜けとなっており、そこを優しく照らすのは硝子の天窓から緩やかに落ちる月光だ。
玄関ホールに黒く落ちる影を確認し、二人は上に向かった。
階段を一つ分のぼり、廊下の窓枠の上部に指をひっかけて逆上がりでもするかのような気軽さでレンは窓の外へ舞い上がり、空中でくるりと一回転して屋根へ着地する。
館を囲む森の木々の向こうに街明かりが見え、その上には丸々と肥えた月が夜に浮いている。
レンと同じようにしてリンも屋根の上にやって来ると、天窓の上に座る先客が振り返った。

「おはよう。起こしに行くの、忘れちゃってごめん」
「いいよーカイトにぃ。だって満月なの忘れてたの私達だしね」
「あ、でもなんか罪悪感めいたのを感じてるんだったら焼きプリンジュース奢ってよ」

軽い調子で付け加えたレンに、了解、とカイトがゆるく笑う。
天窓に手をついてカイトが立ちあがると、まるでその背に満月を従えているように見えた。
そのまま双子のいる方の屋根の縁へと彼はやって来て、レンの横でとまる。
レンがちらりとカイトを見上げれば、いつもは凪いでいる瞳に微かな高揚が浮かんでいるのがわかる。
いくら血を好まない吸血鬼でも本能まではなかなか変えられない。いつもの穏やかな彼もいいが、同族である事を実感させるような今の彼の方が好きかもしれない、とレンはなんとなく思う。
レンの視線に気付いたカイトがその青い髪を揺らせた。

「どうしたの?レン」
「別に、なんでもないよ。それより喉渇いてんでしょ?早く行こう」
「あのね、今日あっちの街でお祭りやってるから、そこが狙い目だと思うんだ!」
「じゃあ、そっち行ってみよっか」

そう言って、館の中に戻ろうとしたカイトの手をレンが掴んで強くひいた。片割れの意図を汲んだのか、リンも半回転していたカイトの空いていた方の手を掴む。
突然の方向転換に、カイトはやや不愉快そうに顔をしかめる。いつもとは違う反応にレンはクスリと笑った。

「カイトにぃ、せっかくだから今日はあっちから行こう」
「派手にいっちゃおうよ」
「なんで?」
「そっちのがおもしろそうじゃん」

笑いながら、カイトを天窓がある方の縁の方へと双子が連れていく。こちら側は双子がのぼってきたような窓はなく、あと一、二歩進めばそのまま地面まで一直線だ。
彼等にとって決して危険な高さではないが、カイトはあまりにも人間から掛け離れた行動を避けるふしがある。それでも即座に否定しない今日の彼に、レンは芝居がかった口調で満月の夜に朗々と唄い上げる。

「我らが夜の王、今宵貴方に捧げられるは美しき楽器と甘く溢るる蜜」

レンがチラリと視線をやれば、リンが言葉を続ける。

「空では至高の銀細工が、ところせましと貴方の夜を引き立てる」

「きわめつけはあの満月。如何でしょう?窶れ萎れるその前に、毒の果実に手を伸ばしては?」

手を繋いだまま縁のギリギリに立ち、一歩分後ろにいるカイトを双子が見遣れば、その口は孤を描く。
月光の薄明かりの中に、三人分の影が舞った。













予定では兄さんがちゃんと吸血鬼するはずだったんですが……あれ?
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