ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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鏡音でほのぼの
戦利品を持って店を出れば、リンがもう坂を登り始めてた。
ただでさえ暑いのにじーわじーわと蝉が鳴いてて、よくリンはあんなに動けるなあと思う。
「リン!待てよ!」
「レーン!はーやくー!」
呼べば立ち止まって、ニコニコしてこっちを見てる。夏ってそんなに楽しいか?俺はもううんざりかも。
坂の真ん中辺りにリンが突っ立って待ってる。
ここらへんは車が来ないみたいだし、堂々と真ん中歩いたって平気だけど、ちょっと走ってリンに追い付く。だってほら、せっかくラムネ買ったのに温くなんじゃんか。
俺が走るとラムネが袋の中でガチャガチャ音をたてる。割れちゃわないかちょっと心配。
そんな調子で走って、あとちょっとでリンの所だと思ったら、にぃって変な笑い方してアイツ走り始めた!
「ちょ、待てよ!リン!」
「アハハ!おーいつ、け、る、かな?さき行っちゃうよー!」
「クソッ…!追い抜かしてやんよ!」
「負けたほうラムネ無しね!」
「のったあ!」
ぱたぱたリンのリボンが揺れて、ラムネがガチャガチャ言うのと一緒に俺が追い掛ける。
陽射しはカンカン、風は無し。蝉はまだまだ鳴いていて、しかも走ってんだから暑くてしょうがない。
なのにリンは楽しそうに、笑いながら坂を走ってく。なんてやつ。
「まぁー、てえ!」
「やあー、だ、よっ、と!はい、とうちゃーく!」
坂を登りきったとこで、リンが息をきらしながら振り向く。相変わらず笑顔だこいつ。
このままじゃ俺のラムネが…ってとこでいいもの発見!
うれしそうににやにやしてるリンをそのまま走り抜ける。
へ?だなんて間抜けな顔したリンが面白くて面白くて、思わず俺も笑った。
「レン?どこいくの!!」
「はは!リン!どこがゴールか、言ってないよ、お前!」
「ひっどい!待てー!」
「追い、つけるもんな、ら、やってみなあっ!」
いっそいで金網を登って、ボロボロのビルの中に入り込む。
直射日光がなくてちょっとひんやりしたビルの中。
でももうボロボロだから、微妙な隙間から日が差し込んでる。
まてー!っていうリンの声が昔の漫画っぽくてまた笑ったら、このお!って、また似たようなセリフ!もう笑うしかないでしょ!
そのまま階段を上がったけど、辛くて辛くて。耳を澄ましたらリンも歩いてるみたいだったから俺も歩く。笑いながら走るのってどんだけ辛いんだ!
くるくるする階段を上ってくと、ようやくお目当てのもの、屋上へのドア発見!
だけどこんなぼろいビルなのに、鍵だけはしっかりしてて、開かない。
ガツン、と漫画みたいに蹴ってみたけど開かない。クソッ、なんだこいつ!!
でももうちょいやれば取れるかも、なんて思ってガスガス蹴ってたら、リンが追い付いて来た。
「あー、つかれたぁあー!レン、何してんの?」
「このドア開かないんだよ。せっかく上って来たのに。」
「ふーん。それじゃあそこは、この私にまっかせなさい!」
スっとリンが髪から引き抜いたのはピン。
王道ですね。
そんなんでマジで開くのかよーって見てたらなんと、
「やた!開いた!」
開いたよ。
なんだこのVOCALOIDにあるまじき無駄スキルは。あ、無駄じゃないか、今まさに使えた。
まあそれはともかく置いといて。
「よっし、じゃあ行くか!」
「うん!ちゃんとせーの、でだよ?」
「わかってるよ」
「「せーの!」」
バン!
ドアを開けて外に出る。
外はまさに、絶景。
坂を上って、また更にビルを上った甲斐があって、こっからは空も町も全部見える。
きれいだ。それがぴったりくる風景。
ほけーっとしてたら、リンに呼ばれた。
声を探して、そっちを見れば、リンは屋上からはみ出た鉄骨の上をとことこ歩いてた、って、
「リン!そこはさすがに危ない!」
「へー、レンきゅんはこあいのねー?いいわよー?リンおねえたんはここで勝利のラムネを飲み干すから!」
「はぁ?勝負は無効だろ。それにラムネは俺が持って、」
ない。
俺が持ってるのはただのビニール袋で、中は空っぽ。
超笑顔のリンの両手にはラムネが一本づつ。
にひっと笑って鉄骨の先に座って、その隣にラムネ(俺の)を置いた。
「レンおいで!こっちこっち!ほらっ!」
「犬呼ぶみたいに言うなよ!……くっそ、落ちたらリンのせいだからな!」
もうヤケになってリンのところまで走る。落ちる?知るかもう!誰か修理よろしく!
流石に走ってくるとは思わなかったのか、リンは驚いた顔をしたけどすぐまた笑い顔になった。
鉄骨の先の方でちょっとフラついて、本気で泣きそうになりながらリンの隣に到着。
相変わらず風はない。だから多分まだましなんだろうな。
はい、とリンからラムネを差し出され、受け取ってから俺も隣に座る。
鉄骨は直射日光で熱々になってて、座るのは少し辛かったけどリンが普通の顔して座ってるから我慢した。
汗が垂れて鉄骨に丸い跡ができる。
でもそれも鉄骨やらの熱ですぐに蒸発して跡形もなく消えた。
遠くではまだまだ蝉がじーじー鳴いて、青空の向こうはふかふかしてそうな白い大きな雲が見える。
鉄骨の下の道を見ると、今は誰も通っていない。まあ、そんな人通りがある道じゃないけど。
そんなわけで、俺達の影が小さいながらも真っ黒に道路に映ってた。
俺が足をブラブラさせながら、こんなだらだら周りを見ているのはリンが喋らないからだ。まあ、だいたい俺と似たようなことを考えてるんだろ。
「なあ」
「ねぇ」
「「夏って、きれいだね」」
声をかけたら見事にハモった。
まあよくあることなんだけど、今回はこれがやけに面白くて二人で大声だして笑った。
「もう、夏も終わっちゃうよ」「まだまだ暑いけどな」「いろんなとこ行ったよね」「海に花火にプールに。あ、ここも一応山だから、山に行ったことになんのかね?」「むしとりにいったじゃん」「あぁ、そういえば。でも何もとれないむしとりはむしとりって言わないだろ」「まあいいじゃん!」「まあ、楽しかったけどね」「あー、8月も今日で終わりかー!」「でも9月も残暑続くってさ。勘弁してほしいよほんと」
「秋はさ、どんな感じなんだろうね」
「さあ。とりあえず今より涼しい事を祈るよ」
言えば、当たり前じゃん、とリンは笑って、ラムネを差し出してきた。
「なに?くれんの?」
「ちがう!楽しい秋を祈って乾杯しよう!」
「なんだそれ」
「いいじゃんいいじゃん!」
リンにラムネを無理矢理持たされ、二人でラムネを掲げてチン、とやる。
「これでおっけ!ばいばい8月!また来年!」
「…誰に言ってんだよそれ」
「そんなの、8月にきまってるでしょ!」
自信満々に笑うリンを横目に、俺はラムネの口を開ける。
日光にあっためられて生温いラムネが、ぱちぱちのどで弾けて体中に染み込んでいった。
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夏おしまい!
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