ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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MEIKO姉さん誕生日おめでとうすぎて本当すみません紐無しバンジー土下座するのでゆるしてください後半は嘘だよ!!
そんな感じのお話
メイコとカイト
ゆっくりしてます
ドアを開いた音がやけに響いた。
先程までの賑やかな空気の代わりに、深夜特有の静けさが部屋に訪れており、僅かな音でも大きく聞こえる。
騒ぎ疲れて寝入ったミク達をそれぞれ部屋に運んだカイトは、さすがに三往復は疲れたのだろう。ソファに座ってぐぃい、と伸びをする。
そんな彼を労るように、ソファの足元、カーペットに直に座ったメイコからグラスが差し出された。
淡い黄金色が満たすグラスを見て、カイトが怪訝そうな顔をする。
「俺、酒飲まないよ」
「知ってるわ。でもこのくらいはいいでしょう?」
にこり、少女のように微笑む彼女の横にはしかし、空になった酒瓶が8つ。
そのギャップに苦笑し、このぐらいならね、とカイト。
揺れるグラスに気をつけてソファからずり下がり、メイコの横に、少しだけ間を開けて座る。
「まあ、せっかくのメイコの誕生日だしね。1杯だけ付き合うよ」
「去年も同じこと言ってたわ」
「そうだっけ」
メイコは右手、カイトは左手にそれぞれグラスを持ってカチン、と一度ガラスを鳴らす。
カイトが僅かに口に含んだ苦さに少々顔をしかめ、メイコはあれだけの量を飲んでいるにも関わらず素面の時と変わらずその旨さを楽しむ。
「結局ボトル一本空けただけで酔い潰れてたでしょう。覚えてない?」
「あったような気もするね」
「なによそれ」
クスクスと漏らす笑い声に、カイトは今までのこの日の事を思い出す。
去年のこの日は既にミクが居て、その影響でぽつぽつと増えて来た仕事を二人して喜んで、それでカイトもついつい飲み過ぎてしまったのだ。
あの時のメイコは喜びはしていたが、声をあげて笑うことはしなかった。ましてや2年前のカイトは、メイコが笑った顔すら見たことがなかっただろう。
グラスを傾けて、中の液体を僅かに飲み込む。
誕生日のお祝いとして贈られた歌を口ずさむメイコを、カイトはちらりと見た。
1番苦しかったのは2年前だった。
待っても待っても歌わせてもらえることはなく、だからといって自ら喉を潰すこともできなかった二人はぴたりと寄り添いあっていた。
まだ互いがアンインストールされていないということを確かめるために、離れて細切れに分解されることのないように、部屋の隅でただアンインストールされないことを願っていた。
消されなければその先でいつか歌わせてもらえる、なんて希望を見出だすのではなく、ただ消滅という恐怖から逃れるためだけの行動。
あの頃は常になにかに怯えていたな、とカイトはまた苦みを一口含む。
メイコが既に飲み終わったグラスに酒を注ぎ、すぐには飲まず、ゆらゆらと揺れるそれを楽しむ。
口ずさんでいた歌を止め、ぽつり、と彼女が言葉を零した。
「なんだかんだでまだここにいるのね、私達」
あの頃は、次の日にはどうせ消されるのよ、なんて思ってたわ。
くるくる渦を巻いた酒が徐々に縁まで上り、零れるか、というところでまた渦が止められて水面が凪ぐ。
彼女が話すのはきっと2年前のことだろう。カイトも自分のグラスに目を落とす。
メイコは言葉を続けようと口を開いたが、結局なにも言わずにまた酒を口に含んだ。
冷たくて、悲しくて、苦しい記憶だ。お互いあまり思い出したくはない。
訪れた静けさの間を縫って、強化された聴覚にミク達の寝息が届いた。
「……… ミク達には、どれだけ感謝しても足りないわね」
「そうだね。あの子達が来たから、俺達は歌えるようになった」
「本当に。私達は消えないでまたここにいる」
そっと伸ばされたメイコの右手がカイトに触れる。
もうあの頃のようにぴたりとくっつき合う必要などはないが、伝わる感触はやはりメイコに安らぎを与えた。
その手を拒絶することもなく、ぎゅっと握り返したカイトが、でも、と口を開く。
「でも、メイコがいたから、俺がここにいられるんだなって思うよ」
「 ? どういうこと?」
首を傾げ、アルコールによっていつもよりやわらかな光を宿す瞳に見つめられ、カイトの心拍数があがる。
それをごまかすようにグラスに残った酒を一気に煽り、勢いにまかせて続きを口にする。
「メイコが頑張ってくれたから、俺が作られたんだよ。それにメイコがいたから、俺は歌えなくても待っていられたんだ。だから、」
「生まれてきてくれてありがとう、メイコ」
酒のせいか、それとも別のなにかのせいでか真っ赤になったカイトの言葉。
メイコは日だまりのあたたかさで微笑み、カイトの手をまたぎゅっと握った。
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