ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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年末年始企画!
BB兄弟でジン退行話です
前半はノエルとちょこっとハザマ
統制機構館内は、その仇名に違わず静寂に包まれている。葉の落ちる音すら聞こえようかという廊下。そこに小さくドアを開閉する音が響く。
常ならば、それもすぐに消え去り、静寂は守られるはずだった。不用意な足音をたてることも拒絶するような、張り詰めた無音なのである。
しかし、開閉の音が消え去るよりも前に、小さな嗚咽が廊下に転がり落ちた。
「ぅう…ひどい、酷いです少佐……なんなのあの人…」
涙まじりの言葉は、いくら小さくとも廊下によく響いた。
扉の向こうには届かないものの、それは遥か先の廊下を歩いていた男の耳に入ってしまった。
ぐずぐずと泣きながら歩くノエルに、緑髪の男が近付く。
「ヴァーミリオン少尉、どうしたんです?」
「へっ?!……あ、ハザマ大尉…」
「もしかしてまたキサラギ少佐に怒られたんですか?いやいや、あの人もよくわからない人ですねぇ」
「ぅ…」
説明する前に悟られるほどいつも怒られて泣いているのか、とノエルは自分のふがいなさに悲しくなる。
怒られてばかりの日々は、学生時代からなんの変わりもなかった。
思い出せば、今の自分よりもツバキの方が、彼の秘書官に相応しいようにも思えてしまう。
さらに溢れそうになる涙を堪えていると、ハザマはニヤニヤとした顔で口を開いた。
「ヴァーミリオン少尉、キサラギ少佐と仲良くなりたかったりします?」
「な、なかよく?!」
「仲良くなれば怒られなくなると思いますよー。ほら、あなたのお友達のツバキ少尉なんかキサラギ少佐と仲良しでしょう?」
脳裏に浮かぶのは、学生時代のジンとツバキ。穏やかに談笑しながら生徒会の仕事を片付けていた二人の姿は、まさにノエルの理想とする上司と部下の関係だった。
ゴクリ、と生唾を飲み込むノエルの様子に、ハザマは満足そうに笑った。
「光GENJIってご存知です?」
「ひかる…?な、なんですかそれ?」
「イカルガ辺りに伝わっていた人物なんですがね、彼は幼い子供をたぶらかして自分好みに育てあげたらしいですよ」
「自分、好み…」
毎朝執務室に入るたびに突き刺さる視線が穏やかなあいさつにかわったらどんなにいいことか。
今までノエルを怯えさせていた要素を反転した日常を思い浮かべる。それはとても魅力的なものだった。
「そこで登場するのがこの術式です!諜報部で極秘に作られているものなんですが、対象の無力化を目的に、幼児化させるものなんです」
「よ、幼児?!なんでそんなものを?!」
「だからぁ、対象の無力化 ですよ。これをあなたに差し上げましょう。アハハ、光GENJI計画ってとこですか?」
「・・・・・・・あ、でも、キサラギ少佐が無力になっちゃったら、いざという時にどうすれば…」
「そこでキサラギ少佐を守るんですよぉ、ヴァーミリオン少尉!そうしたら少佐の信頼は勝ち取ったも同然!」
「!!」
弾かれたようにノエルが顔を上げる。
ニヤリとした怪しい笑いが見えていないのか、救世主だというようにハザマを見上げた。
「さぁ、そうとなったら善は急げですよ。この術式を使ってキサラギ少佐と仲良くなるんです!」
「は、はい!ハザマ大尉、ありがとうございます!」
ばたばたと大きな足音を廊下に響かせて部屋に戻っていく後ろ姿を、ハザマは笑いを堪えながら見送る。
機嫌良さそうに彼が歩きだした先はもちろん、これから始まる喜劇がよく見える場所だった。
「キサラギ少佐!」
ノックも無しに勢いよくドアを開く。ジンは殺気交じりに不快感をあらわにしたが、ノエルはそれに気付く事もなく術式を発動させた。
「なっ、なんだ貴様?!」
まさかいきなり術式を発動されるとは思わず、ジンの対処が遅れる。
その間を逃さず、噴出した薄緑の光がジンを包みその姿を覆い隠した。
そのまま球状になったそれを見て、とんでもない事をしてしまったんじゃ、という不安がノエルの胸に浮かびあるが、しかしそんなものもすぐに消え去った。光は弾け、包まれていたジンが姿を現したのだ。
ノエルは思わず言葉を失う。
ジンの執務椅子には今、彼そっくりの少年がすやすやと眠っていた。
年は7歳かそこらといったところで、眠っているのは術式の効果だろうか。
だぼだぼの執務服の隙間から覗くのは少々痩せぎすの体躯だが、白い肌は傷一つなくすべらかなようだ。
瞼は伏せられているものの金色の睫毛に縁取られた瞳は大きく、容貌は少年というよりも少女のそれだ。英雄と称される今でも中性的な顔立ちではあるが、幼い時はそれがさらに顕著だったらしい。
「うわぁ、少佐・・・かわいい・・・」
外に跳ね気味の髪はやわらかそうで、ノエルは眠る子どもの髪を撫でる。
元が上司だと考えると罪悪感めいたものが浮かんでくるが、見た目通りの感触が癖になりノエルは何度も何度もなでてしまう。
面影はあるものの、安らかな寝顔はいつもの氷のような視線とは似ても似つかない。
「ぎゅってしてもいいかな・・・いいよね、だって寝てるもん!」
ドキドキと高鳴る胸をそのままに両手を伸ばすと、小さな子供がもぞりと動いた。
瞼が開き、澄んだ翡翠があらわれる。
ノエルは手を伸ばしたその姿勢で硬直した。
ぼんやりとした瞳は辺りをさまよった後ノエルを見て止まると、そこでようやく覚醒したようで目を見開いた。
「あ、少佐、これは違くてですね、えっと!」
「さや・・?・・・じゃない?」
「さや・・?」
聞きなれない名前に戸惑うが、我に返り弁解をしようとノエルが口を開くも、ジンの瞳がみるみるうちに滲んでいく。
え?と慣れない予感にノエルが戸惑ううちに、ぼろり、と大粒の涙が大きな瞳から零れ落ちた。
「ふぇ・・・ここ、どこぉ? にいさん、にいさんは?」
「あ、あぁぁぁ、泣かないで、ね?少佐!」
「しょうさじゃないもん、じんだもん・・・にいさぁん、にいさん、どこぉ?」
うぅ、と小さな嗚咽でぽろぽろと泣く姿にノエルは罪悪感でいっぱいだ。どうすればどうすれば、とノエルもつられて泣きそうになりながらも、ジンが呼ぶ「にいさん」の存在を思い出す。
「そうだ、ラグナ=ザ=ブラッドエッジ!」
突然の大声にジンはびくりと縮こまる。
ノエルはあわてて安心させるような笑顔をつくり、ジンに笑いかけた。
「キ・・えっと、ジン君?今からお姉さんといっしょにお兄さん探しにいこう?」
「・・・うん」
涙はまだ止まらないものの、ジンはこくりと頷く。
ようやくどうにかなりそうな気がして、ノエルはひとまず安堵した。
≫後半
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