ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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夏企画!
帯人で幽霊なんですが、いつもと変わらない気もします。
マスターが出てますがこのマスターは特殊なマスターです。限定ものです。
かなり下種いマスターで酷い内容なのでご注意!
「マスター、」
苛々としながら、なんの特徴もない男がキーを叩いていく。
マスターと呼ばれた彼の背後に佇むのは、暗い紫の髪をした青年だった。
男より二つほど年下だろうか。長めの前髪の隙間からのぞくのは左目だけで、右目のあたりは白い包帯に覆われている。
男の背中を、どこかうつろな目で青年は見つめていた。
「マスター、」
「っるセぇよ!」
掠れた声で再び男を呼んだ青年に対し、男は苛立たしげにキーボードを叩いた。ガチャガチャと耳障りな音をたてて椅子から立ち上がる。
そのまま青年の髪をわしづかみにすると、なんの躊躇いも無く壁にたたき付けた。
ゴッ、ゴッ、と額が壁にぶつかる音が男の荒い息に混じって暗い部屋の中に篭る。
糸の切れた人形のようにされるがままになっている青年は、暴力を振るわれているというのに苦悶の声一つあげない。
それがさらに男の精神を逆なでしたのか、男は掴んでいた髪を放して、仰向けに倒れた青年の肺の辺りを強く踏み付けた。
強制的に吐き出された息が奇妙な音となって青年の口から漏れる。
その様子が気に入ったのか、男は口元をいびつに曲げると、何度も何度も足を踏み下ろした。
繰り返される暴行の中、青年が僅かに口を動かす。
それはたしかに男の名の形だったが、男は自らが行使する力に興奮しており気付くことはなかった。
これが最後、というように今までのものより力を込めて足を踏み下ろし、ようやく男の動きが止まる。
青年の隣にしゃがみ込み、再び髪を掴んで無理矢理顔を上げさせた。
右目の辺りに巻かれていた包帯が解けかけ、その下に潜んでいた、子供の落書きのようなデタラメな傷痕があらわになっている。
まだ修復が終わっておらず、白い肌の下の金属をのぞかせたままのそれを一瞥すると、先程打ち付けた額へと視線を移す。
あれほどの衝撃を受けたにもかかわらず皮膚は破れることは無く、そこは大きく青紫に変色しているだけだ。
そこを空いている手でぐりっと指を捩込むように押すと、閉ざされていた青年の瞼が、苦痛の色と共に開かれる。
「なんだ、痛いのか?ンなわけねぇよな、なにしろテメェはバグったんだからよ。元のカイトならともかく、壊れたテメェが痛覚なんて高尚なモン持ってるわけねぇよなぁ!!」
言い終わると同時に、男は青年の頭を床にたたき付けた。
聞くだけで不愉快になるような鈍い音がし、気色悪い感触が男の手にも伝わる。
「くっそ、ふざけんな、ふざけんなマジなんで壊れてんだよクズ!歌えなくなったVOCALOIDに価値なんてねぇだろ?!なんでよりによって俺のが壊れるんだよ!!死んじまえ、テメェみてぇな役立たずなんて死ね、死んでさっさとスクラップにでもなれよ!!!」
ガン、と勢いよくまた頭を床にたたき付けて、男は手を放す。
暴れ疲れたのか、荒い息のまま床に座り込んだ。
「マスター、」
青年の掠れた声が、今度は確かに男の意識に捉えられる。
男はちらりと視線をやった。
「ンだよ」
「マスターは、
俺が死んだら嬉しいですか?喜びますか?安心しますか?楽しいですか?スッキリしますか?快感ですか?満たされますか?開放されますか?あいがつたわりますか?ラクですか?癒されますか?笑えますか?落ち着きますか?幸せですか?」
「なっ…」
どこか虚ろな、しかし男を見つめる瞳と、理解しがたい言葉の羅列に男はずりさがり青年から距離をとる。
しかし男は、たった今まで殴り付けていた青年に対して、怯えたような行動をとった自分が認められなかったのか、立ち上がり苛立ち混じりに青年を蹴り飛ばした。
「たりめぇだろ!」
「そうですか。なら、死にますね」
にこりと微笑んだ青年は静かに立ち上がる。
カーテンのかかった窓を開け放ち、その先にあるベランダの手摺りの上に器用に立って見せた。
「俺は今から死にますから、最後にお願いしてもいいですか」
「は、? てめ…なにやって ?」
男は青年の後を追うようにふらふらとベランダに出る。
手摺りの上に立っているせいか、見上げる形になった青年の背後には曇った夜空が広がっていた。
それに溶け込むような色の髪を夜風に遊ばせ、青年は告げる。
「俺、帯人って名前なんです。マスターは今まで俺の名前を呼んでくれなかったけど、これから、帯人って、呼んでください」
「…っざけんじゃねぇよ!なに気色わりぃ事言ってんだクズ野郎が!」
男の絶叫にも青年は笑顔を崩さない。
「ちゃんと死んだ後じゃなきゃ呼んでくれないってことですね。あぁ、楽しみだなぁ…」
空を見上げるようにして、青年は人形のようにベランダから消える。
しばらくして遠くで、ガシャンという音が生まれるのを男は聞いた。
恐る恐る、男はベランダから地上を見る。しかし男の部屋からは地上の様子はよく見えず、男はどこか覚束ない足取りで、青年が落ちた場所へと向かった。
。
「……うわ、キショ…」
男が見たものは、かろうじて人の形の部分が残っていた。
金属の塊だとはいえ、人に限りなく近い設計のため、見るにたえない。
悍ましい物体から目をそらし、男は自分の部屋に戻るため背を向けた。人間ではない、あれは機械なのだと自分に強く言い聞かせながら。
エレベーターは故障しており、男はしぶしぶ階段を上り始める。
かつん、かつんと自分の靴の鳴る音がぞわぞわと男の神経を逆なでる。ついさっき見たものが、視界をちらついて放れないのだ。
階段を上りきり、男は部屋のドアを開けて定一に、パソコンの前へと戻る。
一息ついたところで、窓が開いたままになっているのを思い出した。
風に煽られるカーテンをまとめて、窓に手をかける。その向こうに、ちらりと何かの影が男の視界に映り込んだ。
嫌な予感がして窓の外をじっと見つめたが、再び影が現れる事はなく、男は頭を軽く振って、過敏になっている神経を宥めようとした。
ァ
男の鼓膜を、かすかな音が揺らす。
するりと、なにかが背後から首に纏わり付くのを感じた時には、男はもう動けなかった。
俺 ちゃんと しにましたよ だから
マスター 俺の名前 呼んで ?
湿った音が、遠くでまた、生まれた。
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本当はマスターは最後まで生きてる予定だったんですけど、
ヤンデレ幽霊に呪われたっぽいです。どんまい。
一応書いておきますと、男→マスター 青年→帯人です
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