ヤンデレからほのぼのまで 現在沈没中
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まだまだ夏企画!!
ハクとネルとカイコ
ネルが座敷わらしです。金髪でも座敷わらしです。金髪で座敷わらしなのでもちろん現代風です。
花火大会なほのぼの目指した話です。
ぴんぽーん、と軽い音が暗い部屋の中に響く。
その音につれられるように、パソコンにかじりついていた銀髪の女性がよろよろと玄関に向かった。
ぼんやりしているようで手間取りながらドアを開くと、廊下には藍色の髪の少女がいた。
「こんばんは、ハクちゃん。お酒買ってきましたよ」
「あ、ありがとう、カイコちゃん…ほんとに、ごめんね。買い物なんて頼んじゃってお酒は重いし今日なんて暑いのにわざわざ買いに行かせるなんて迷惑だったよねそんなこと頼んでごめんなさいわざわざ動いてもらってほんとうに」
「ハク、冷気が逃げるから早く閉めなさいよ!」
「あ!ごめんね、ネルちゃん。カイコちゃんも、こんな狭くて汚い家だけどもし入ってもらえたらなぁなんて思うんだけどこんなことおこがまし」
「ハク!」
家の奥からのビシリとした声にハクの言葉が遮られる。
二度の怒声にハクが涙目になった隙に、カイコはおじゃまします、とにこりと微笑んだ。
薄ぐらい廊下には適度に冷えた空気が漂い、外を歩いて汗ばんだカイコの肌を優しく冷やす。
もう7時近くになり、夏場といえども暗くなっているのに何故明かりを点けないのかとカイコが尋ねれば、作業に夢中で日が落ちたのにも気付かなかったということらしい。
もといた部屋に戻ったハクにカイコも続き、ドアを閉めると、ベランダの外からの僅かな光しか明かりがない。
ハクがあわてて電気をつけると、ベットが一つと、その隣にパソコンのラックがあり、ベランダ近くの部屋の角には熊と鶏と鰐を足して三角定規を掛けて鉛筆で割りそこねたような、カイコの身長より頭一つほど大きな謎のオブジェが不思議な影を床に落としていた。
カイコはひとまず、部屋の中央にある足の低い丸テーブルに酒瓶のたくさん入ったビニール袋を置いてふぅ、と息をつく。
やり残したことがあったのか、再びパソコンに何か打ち込み始めたハクの後ろ姿を見てから、カイコはネルを探してきょろきょろと視線をさ迷わせた。
「ハクちゃん、ネルちゃんはどこにいるんですか?」
「えっと、さっきはリビングにいたみたいなんだけど…」
「ここにいるわよ」
音もなくベットの上に現れた少女にハクはひゃあ、と声をあげるが、カイコはこんばんは、とやわらかく笑うだけだ。
カイコの反応が期待外れだったらしく、僅かに眉をひそめた少女はハクに怒鳴り付け始めた。
「ひゃあってなによひゃあって!人を幽霊かなにかみたいに言わないでよ!」
「でも…ネルちゃんって座敷わらしじゃあ…」
「 だ か ら で し ょ !たかが幽霊と同じにしないで!」
「ご、ごめんね、ネルちゃん」
「大体、せっかく私がいるっていうのになんなの?!ハクから溢れ出る不幸臭!これじゃあ私がいなくなった後の不幸だって、私の力なのかハクが引き起こしたのかわかんないじゃない!」
「ぅぅ…ごめんなさい、不幸でごめんなさいでも私だって幸せになりたくないわけじゃなくてねってあぁ私みたいなのがこうやって生きていけるだけで十分な幸福なのに欲張ってごめんなさいほんとうにすいま」
「あーもう、うるさいわよ!!」
もう見慣れた光景にカイコは、二人は仲良しさんですね、と微笑む。
その反応にネルは声を上げようとしたが、カイコの表情に毒気が抜かれたのか、ふて腐れた表情でベットの上に転がった。
「ねぇハク、あんた酒瓶からラッパ飲みするつもりなの?コップは?」
「あ、」
「さっさと取りに行ってきなさいよ。あんたがおどおどしてる間に花火大会始まっちゃうわよ!」
「あ、うん、行ってくる」
おどおどとしていたハクがコップを取りに部屋から出ていくと、ドォン、と体に響く低音がベランダへ続くガラス戸を震わせる。
カイコとネルが夜空を見ると調度、光の筋が鮮やかに広がった。
それが消えるかどうかというところでまた、光が直線に夜空を駆け上がり、弾ける。
何度か連続で打ち上がってから、カイコが思い付いたように部屋の電気を消した。
ネルはそれに、意味がわからないと不機嫌な顔になったが、次の花火が上がり始めたころにはその表情も変わった。
暗い部屋の中を、赤や緑、橙などにやわらかく彩って、花火がよりいっそう輝いて見え、ネルは思わず綺麗、とこぼした。
ふと、カイコは疑問に思って口を開く。
「ネルちゃんは、花火って何回ぐらい見たことありますか?」
「んー…、覚えてないわよ回数なんて。多分もう何千回とかじゃない?」
「何千…すごいですね。ネルちゃんは、やっぱり座敷わらしなんだなぁ…」
「そうよ。なに?いまさらそんなこと。カイコよりもハクよりもずっとずーっと年上なんだからね」
「それじゃあ、長い間、すごいたくさんの人を幸せにしてきたんですね」
尊敬の念がこもったカイコの言葉にしかし、ネルは気まずそうに視線を落とす。
ニ、三度花火が部屋を照らした後、ネルは口を開いた。
「そんな良いことじゃないわ。私がいなくなったら、みんな不幸になるんだから」
「ネルちゃん…」
「嫌いになるから家を出るわけじゃないの。座敷わらしの間にルールみたいなのがあって、ある程度その人が幸せになったら、離れなきゃいけないのよ」
まぁ私がいなくなった後不幸になるんだから、私に被害はないからいいんだけどね!
吐き出された言葉とは裏腹に、その瞳には苦しそうな色が映る。
それにネル自身が気付いているのか、いないのかはカイコにはわからなかった。
「もう半年もいるんだから、いくらハクもそろそろ幸せになってくると思うわ」
「いつも、半年はかかるんですか?」
「そんな長いわけないじゃない。私、優秀だから、今までは長くて2ヶ月ぐらいだったわね。だからこんなに長いのは初めて」
長くいるせいか、離れがたくなってしまっているのだろう。花火が浮き上がらせるネルの顔は淋しげだ。
カイコはかける言葉が見つからず、ネルも何も言う気がないのか、花火の音だけが部屋の空気を震わせる。
いくらか時間がたってから、ネルがベットから立ち上がった。
「ハクが遅いから、ちょっと見てくるわ」
「はい。いってらっしゃい」
一瞬で家の中の好きな場所に飛べるというのに、ネルは歩いてキッチンへと向かった。
ハクが包丁のあるキッチンでさっきのような反応をしたら危ないと思ったのだろう。ネルの、おそらく彼女自身でも気付いていない無自覚の優しさを見て、カイコは自然と微笑んでいた。
ドアの向こうに消えた長い金色の髪を見送って、カイコはドォン、ドォンと心地よく響く花火を眺める。
数秒の後、キッチンに着いたらしいネルの大きな声が花火の音に混じり、だだだだだだと廊下を走る音。
「ハクがまた変な料理作ってるから阻止する!だからカイコは待ってて!!」
行き着く間もなくまた、だだだだだだと廊下を走ってネルはキッチンに戻って行った。
恐らく、つまみかなにかを作ろうかと思ったのだろう。
彼女の料理は味は良いのだが、時折うっかり手を切って豆腐に苺ソース状態になったり、料理中に棚をひっくり返したせいで箸置きも一緒に炒めていたりする。
しかしそれも毎回あるわけではないので、そこまで力いっぱい阻止しなくてもいいのだが、ネルはハクに構いたいのだろう。むしろ、料理の味においてはネルよりハクの方がうまいのだ。
あわただしくもこっそり持った楽しさが隠しきれていないネルの様子に、カイコはクスリと笑みをこぼす。
自分も何か手伝おうかとカイコは立ち上がりかけたが、料理があまり得意じゃないでしょうと言われた事を思い出して、再び座った。
わー、ぎゃー、とネルの叫び声やら怒鳴り声が聞こえる中、時間は刻々と過ぎていきやがて、部屋が暗くなる隙もないほどの連続打ち上げと共に花火大会も終わってしまった。
結局、残念なことに花火を全く見なかったハクを思い、カイコは小さく笑う。
恐らく、ハクが座敷わらしルールにひっかかるほど幸せになってネルがこの家から出て行くのは、ずっと先のことだろう。
ほーのぼの!ほーのぼの!!
狂夜さん、リクエストありがとうございました!!
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